私は丸1週間休んだ。
 休んだいる間に文化祭の準備が始まっていたことを柚から教えてもらった。私たちのクラスがやるのは、フォト選手権。クラスの皆でお客さんを撮って、いちばんよく撮れたものが優勝。優勝した写真に写っている人たちには図書カード5000円分が贈られるというものらしい。それとこのクラスが文化祭の露店1位を目指していることも教えてくれた。
 私が居たら、このクラスは1位になれない。だって私は病人。いつ倒れてもおかしくない。私のために気を遣って準備してもらうのも申し訳ない。文化祭の準備はクラスの皆でわいわいするものだと本を読んで知った。私みたいな人は戦力外。皆みたいに楽しく笑うこともできないし、手伝うこともできない。こう考えてみると私は無力だ。
 文化祭の準備が始まってから、私は早く帰ることにした。居てもなにもやることはない。皆、私の病気のことを知っているから気遣ってくれる。それが嫌だった。皆、私が病気だと知ってよそよそしくなった。柚や華也、楓を除いて。その空気が気まずかった。
 
 文化祭の準備が始まって2週間。
 今日も私は、ホームルームが終わった後、早歩きで帰る。1人で帰るというのもなかなかいいものだ。いままで見えなかったものが見えてくる。例えば、コンクリートとコンクリートで挟まれながらも懸命に咲いている黄色い花。余命宣告されている私に勇気を与えてくれる。明日も頑張ろうという活力になる。
 学校から10分ぐらい歩くと家に着く。あとちょっとで家だ、そう思って歩いていると急に手を掴まれた。何!?怖い。「きゃあぁっ!」私は悲鳴を上げた。
 「僕だよ、僕。楓だよ?」
 なんだ、楓か。私は安堵のため息を吐く。それにしても楓はどうして私のことを追って来たんだろう。急ぎの用事でもあったのだろうか。
 「涼音ちゃんはさ、どうして文化祭の準備やらないの?楽しいよ。」
 あっ、そうだった。楓には病気のこと、伝えてないんだった。
 「楓にはまだ言ってなかったね。彼氏なのにごめんね。私、心臓病なんだ。後、半年しか生きられない。皆はそれを知っているから気遣ってくれてるんだよ。だってさ、病気の私が文化祭の準備手伝っても、なんの成果にもならないじゃん。ただ邪魔するだけ。だったら私っていらなくない?」
 自分で言って悲しくなった。そう、私って皆からしたら邪魔な存在なんだ。泣き出したくなる。
 「涼音ちゃんはどうしたいの?ほんとは皆と一緒に文化祭の準備したいんじゃないの?涼音ちゃんは居るだけで皆を楽しませてくれるよ。涼音ちゃんが居て迷惑なんてことない!明日からはぜったいに参加してね!ぜったいだよ!」
 楓は風のようにやってきて、風のように去っていった。まだ仕事が残っているのに飛んできたのか。楓のために、明日は文化祭の準備手伝ってみようかな、そう思った私だった。