んん?
 私は今どこにいるの?
 保健室特有のつんとした消毒液の匂いがする。
 試しに目を開けてみた。白い天井が見える。やっぱり私は保健室にいるんだ。
 音がぼやっとしていて聞こえにくい。
 「・・音ちゃ、涼音ちゃ、涼音ちゃん、涼音ちゃん!」
 何処かの誰かが私の名前を呼んでいる。でも誰が読んでいるのかはわからない。
 「涼音、涼音!いつまでも寝てんじゃないよ!」
 誰かが私に対して怒っている。これも同じく誰が言っているかは不明。だんだん眠くなってきた。もう1回寝よう。
 「涼音ちゃんっ!」
 「涼音!」
 2人が同時に怒鳴った。キーンと耳障りな音がする。ここに病人がいるというのによくこんな声が出せるな。そんなこと私だったら絶対にできないよ。 それじゃ、おやすみなさい。心の中でそう呟いて、もう1度夢の世界へと戻っていった。

 うっ!
 なんか気持ち悪さがカムバックしてきた。
 はあ、はあ、なんか息がしづらい。水の中で息を吸っているみたい。
 「神田さんっ?大丈夫?」
 幾田美琴(いくたみこと)先生が切羽詰まった声で聞いてくる。この優しい声は絶対に幾田先生だと思った。私がこの学校で一番慕っている先生。
 私は答える余裕などなく。「はあ、はあ」と言うだけだった。
 「とにかく、親御さんと救急車を呼ぶわね。えっと、119,119。そうだ、早乙女くんと泉さんちょっとごめんね。教室に戻って神田さんのバッグ、持って来てくれる?」
 「早乙女、持っていってあげな。私は2人の恋に首を突っ込む気は微塵もないからね。」
 ああ、そうだったのか。さっき私の名前を呼んでいたのは楓と柚だったのか。通りで聞いたことのある声だなと思ったわけだ。
 でもそんなこと考える余裕など今の私にはない。息が苦しい。胸が痛い。体が熱い。
 私、まだ若いのに死んじゃうのかな。そう思いながら意識を手放した。