扉が開く音で目が覚めた。

慣れない白くて高い天井。消毒の匂い。
嫌でも自分が健康な人間では無いことを思い知らせてくる。

「海!!久しぶりだな〜、寂しかったぞ!!」

昨日会ったばかりの親友が冗談めかして言う。
今日は体調はいいほうではないが、自然と笑みが毀れる。

「お前、昨日あったばっかりだろ。」

入院生活は楽なものでは無い。

今まで風邪もほとんどひいたことがないような、The健康体だった俺にとって、こういうのは正直辛い。

楽しい楽しい高校生活もしばらくお預けだ。

しばらく話していると、面会時間が残り3分を指した。

「あ、そういや、暇だろうと思っていいもん持ってきたんだ。」

スマホも一日に数分しか使えない俺にとって、暇つぶしというものほど魅力的なものはなかった。

まぁ、見事に期待を裏切られたのだが。

「なんだそれ」

明らかにしおれている花。
「嫌がらせか」と言おうとしたが、あまりにも親友の顔が真剣すぎて、そんな事は言おうにも言えなかった。

「見ればわかんだろ!朝顔だよ朝顔!!」

花がなんの暇つぶしになるのか。俺には到底理解できない。

「花でどうやって暇潰せってんだよ…」

「ま、育ててみれば花にだって愛着湧くもんだよ。じゃ、また今度な!」


乗り出していた体をベットに戻す。

期待はずれだったということもあるが、単純に体を起こしておくのが辛かった。

明らかに以前の自分の体ではなくなっていることがわかった。


“死”というものを初めて意識した。
別に余命宣告されているわけじゃない。


気を紛らわせたい。
貰った朝顔をどうしようかと振り返った時だった。

花が咲いていた。

紫と言うより、藍色に近い。

「いや、朝顔じゃなくて夕顔じゃねーか…」




それにしても美しすぎる気がした。



まるであの時のような

あの

図書室で感じたような感情だった。

これが9年前の出来事を思い出した瞬間だった。


誰だっけ、あの子。
あの子の名前。あの子の顔。

薄れていた記憶が、鮮明に戻ってくる。
声、顔は何となく思い出せた気がする。

でも、名前。

名前。

なんだっけ。


葵、だったかな。

夏の花の名前だった気がする。





会いたいな。久しぶりに。

今どこで何をしてるんだろう。




いや












あの子、死んだんだ。