私はよく化け物と呼ばれる。それは私の腕にあるリスカ痕をクラスメイトに見られたことが原因だった。ならもういっそのこと見せてしまえばいい。どうせ化け物と呼ばれるのなら思う存分言えばいい。どう思おうが私には関係ない。
「太宰の本か、面白いよな」
放課後、屋上で自殺願望者で有名な太宰の本を見ているとひとりの人間が話しかけてきた。その人は屋上の屋根で寝ていたらしい。よく見れば二つ上の先輩だった。
「あ。すまん。驚かすつもりはなかったんだけど」
「い、いえ、別にそんなことはないですけど…」
これ先輩との出会いだった。「で?お前何でリスカなってしてんの?」
なぜか私の腕にあるリスカ痕のことを知っている先輩、まさか三年にまで話が行き届いているなんて思ってもみなかった。
「いや、うわさ話になってたんだよ。
一年の神谷ってやつの腕に大量にリスカ痕があるってのを聞いてさ?」
そう言って話し続ける先輩。こんな私のうわさを聞いて気持ち悪いと思わなかったのだろうか、怖いと思わなかったのだろうか。
「でもさ、俺みたいなやつがいるんだって知ってちょっと嬉しかった」
「どういうことなんですか?」
「ん?あぁ、こういうこと」
彼は袖を挙げて私に腕を差し出した。その細い腕には私よりは少ないがそれでも多くの傷がその腕にはあった。古傷から新しいものまで、たくさんの傷が。
「だからさ、お前が気持ち悪いって思わなかったわけ。で?なんでお前はリスカなんか始めたんだ?」
「小中学校のころのいじめと親の私への興味のなさが原因で病んでそこからリスカを始めたんですよね、」
「そうだったんだな、なんか悪い」
「え、何がですか?」
なぜか謝る先輩。謝る必要なんてないのになぜ謝るのだろうか。
「謝るぐらいなら先輩の話聞かせてくださいよ」
「いいぞ?でもお前みたいな理由はないけどな。」
その時、最終下校の時間になった。話をする時間はなかった、一方的に私が話しただけだった。先輩に申し訳なかった。
「先輩、あの、明日も…その…此処に…来てくれますか」
「来てやるよ。その程度でお前のその傷が治るなら」
そう言いながら二人で階段を下りる。教師達しか残っていない学校の階段を二人並んで歩く。本来こんなところ誰にも見られたくないけど、今日だけは特別の日になったかもしれない、私が唯一笑えるようになったきっかけかもしれない。この府とにだけなら心を許してもいいかもしれない。