ピピロ…ピロピン……♪

 深夜午前0時。
 ヒロくんから一通のメールが届いた。
 方向音痴でバカなヒロくん。
 道に迷ってメールを送ってくるのはこれが初めてではない。
 けど今回ばかりは、あいつの手足に鎖でもつけてやろうかと思った。
 毎度毎度まいどまいど……。
 助けに向かう、私の気にもなってみろ!

『はやく たすけて;O;』
『なにその絵文字……なめてんの?』
『ご、ごめんなしゃい>O<』
『で、いまどこ?』
『動物園!』
『はぁ!?』
『ぱんださんかわいい^O^』
『上野ね、りょーかい』
『笹食べる?』
『食うかバカッ! 動くなよ!』
 
 眉間《みけん》にしわを寄せながら、上着に手をかける。
 今回も、警備が厳しそうな場所だ。
 あいつはわざと見つかりそうな場所に忍び込むところがある。
 はぁ~、やれやれ。
 骨が折れそうだ。

 深夜の動物園ってのは正直、薄気味がわるい。
 監視カメラの死角を探して慎重に足を踏み入れること1時間。
 ようやっと内部に潜入。
 メールをチェックすると、ヒロくんは高いところにいるらしい。
 ……なんで高いところ?
 バカだから?

 ピピロ…ピロピン……♪

『深夜に2人で動物園。なんてロマンチック!』
『ひかえめに言って、くたばれ』
『まーちゃんひどいっ>Σ<』
『なんだその絵文字は……それと、まーちゃんいうな!』
『次は植物園に行こうねっ・w・』
『おまえあんまちょーしのんな』
『あっ、バッテリー切れるっ(笑)』
『安心しろ。あたしはとっくにキレてる』
『ちょwww』
『◎ _ ◎』
『やだその顔www』
『◎ ◎』
『もうwwやめてってばww』
『◎ ◎』
『ごめんなさい』

 そんなやりとりをしながら。
 ふと奇妙な明かりが目について、私は足を止めた。
 サル山の頂上で怪しく光る、液晶画面。
 体育座りで笑うサル顔が、まるで人間みたいに。

 器用に電子端末を使っている。
 キィ、とサル顔が言った。
 私は返事せず、メールを送る。

『こんなところにいたのね』

 サル顔は照れた表情を隠すように、頭をポリポリ掻く。
 私は柵を飛び越えて、岩山を駆け上り、あっという間に頂上へ。
 覆いつくさんばかりの星空に、言葉を失う。
 うん、綺麗だ。
 サル顔は、そっぽ向いてなにかやっている。
 風情のないやつめ、なんて思っていると。

 ピピロ…ピロピン……♪

『月が、綺麗ですね』