「えっ……」

 衝撃の告白から、純也は声が出せなかった。何を聞いていいかわからなかったので、忠司の続きの言葉を静かに待つ。

「俺が車椅子生活になったのは、自分のせいだと思ってるんだよ」

「自分の……って、國上先輩ですか?」

 忠司はゆっくりと頷く。

「ひたりとはいわゆる幼なじみでね。幼稚園に行く前からお互いを知った関係だったんだ。それで俺たちが小学生の時、ひたりが歩きスマホしててね。車がきてるのに気づいてなかったんだ。そしてひたりを庇った俺は――」

 忠司は車椅子をポンっと叩く。

「そうだったんですか……」

「それからかな。ひたりが俺の面倒を積極的に見るようになったのは。で、中二の時に告白された。悩んだけどね。罪悪感で告白したんじゃなっかって思っちゃって。でも結局はオーケーした。今でも思うよ。これでよかったのかって」

「…………」

 純也には何も言えなかった。これは当事者間の話であって、第三者の純也が口を挟んでいいことではないと。そもそも何について口を出そうと思ったのか。純也にはわからなかったが、自然と言葉がするりと出ていた。

「あの、自分がこんなこと言うのはおこがましいというか、あつかましいというか……。よくわかんないっすけど」

「うん?」

 純也は深呼吸して一息つける。そして頭を整理しながら言葉を選びながら思ったことを口にしていく。

「先輩の、佛圓先輩の今の気持ちを、國上先輩に伝えたことはありますか?」

「えっ……」

 困惑した表情を浮かべる忠司。それでも純也は言葉を止めなかった。

「その、なんていうか……。佛圓先輩はちゃんと國上先輩が好きなんですよね?」

「それは……、そうだね。好き、だよ」

 歯切れは悪いが、ちゃんと「好き」という言葉を聞いて、ならばと純也は前のめりになる。

「だったら、その言葉をちゃんと國上先輩に伝えたことはありますか?」

「ん……」

 言葉に詰まる忠司。その状況がノーだと言っているようなものだった。

「伝えましょう。その気持ち。ちゃんと國上先輩に」

「な、なんでかな?」

 今度は純也が昔を思い出し、暗い顔になる。それでも純也は自分と同じ過ちを犯してほしくないと思い、意を決して言葉を強める。

「俺、中学の時バスケ部でみんなで頑張ろうって思って、その気持ちはみんなが持っているって思ってました」

 純也はぎゅっと胸を掴み、当時の苦しさを思い出す。

「でも違いました。練習のキツさに耐えられないやつや、ただ友人がバスケ部に入ったからってだけの理由のやつもいてバラバラでした」

「…………」

 そこで純也は顔をあげ、忠司の目を真っ直ぐ見つめる。気圧された忠司はビクっと体を震わせる。

「だから、その人がどう思っているかちゃんと聞いたほうがいいと思うんです。國上先輩が罪悪感で告白したならそんなの関係なく自分は國上先輩が好きだって伝えてあげてください。じゃないと気持ちのズレはいづれ取り返しがつかないことになります」

 言い切った純也は心臓がバクバク動いている。余計なお世話だと怒られるだろうか。それともひたりの本当の気持ちを知るのが怖いのだろうか。しばし沈黙が流れる。忠司はじっとしていたが、やがて拳を作り、自分の頭をポカりと叩いた。

「ダメだなあ、俺は。付き合ってる、なんて言って本当はお互いそれまでの関係が失うのが怖かっただけなんだよな。……うん。ちゃんと聞くよ。それで今の関係が変わったとしても受け入れる」

「あの、自分で言っておいてなんですが、大丈夫ですか?」

「ああ。むしろありがとう、かな。今の自分の気持ちをぶつけて、どう転がってもそこからが俺のスタートなんだ」

「そうですか。なら、頑張ってください」

「ありがとう」

 忠司はうーんと伸びをし、ぱあっと明るい表情を浮かべる。

「今日これからお見舞いに行くとこにするよ」

「そうですか」

 ならもう自分に言うことなないと純也も帰宅しようとする。そこへ忠司から待ったの声がする。

「悪いんだけどさ。俺ってこのとおりだからさ。ひたりの家まで連れてってくれないか? 実は登校する時、結構きつかったんだよね」

「…………え?」

 こうして純也もひたりのお見舞いに行くことに。つまりそれは忠司の告白の場に居合わせるということ。さすがにお邪魔だと思い、純也は慌てて提案する。

「もちろん車椅子を押すくらい構いませんが、当然送ったら帰っていいんですよね?」

「え? 君がけしかけたんだから結末を見届けてくれよ」

「えぇ!?」

 こうして波乱のお見舞いに行くことになった純也。内心で、余計なこと言わなきゃよかったと若干後悔したが、今のままではダメな気がしたので腹をくくってついていくことにした。