部活が始まって約一週間。

 純也と里奈の関係は、最初の頃とは比べものにならないほど改善されていた。

「なんかさー。二人なんかあった?」

「え、なんもないっすよ」

 部活の休憩中、舞華に尋ねられるが至って淡々と答える純也。

「えー、なんかあったっしょ! 朝比奈ちゃんめっちゃ人見知りだったのにもう仲良くなってるし」

「それ、中条先輩が怖かっただけじゃないっすか?」

「お? 言うようになったねえ、この後輩は」

 先輩相手にも気さくに冗談が言えるような関係を築いていた。部活名どおり、ゆるい関係だ。

「ふふっ、でも確かに舞華は怒ると怖いよね~。あたしがからかうとめっちゃキレるし」

「ひたりんはやりすぎなの! まったくもう!」

「まあまあ、ひたりも悪気があるわけじゃないからね。許してやってよ」

「まーた佛圓くんはひたりんを甘やかすー。よくないと思うなー」

 仲裁に入った忠司に対し、ぶー垂れる舞華。

「おや? 嫉妬ですかな? でも忠司はあげないよ~」

 そう言ってひたりは忠司のほっぺにちゅーする。

「!?」

 純也と里奈は声にならない悲鳴を上げ、驚きを隠せなかった。固まる二人に対し、舞華だけはやれやれといった、慣れた様子で忠司とひたりを見ていた。

「こらこら二人とも。部活中はラブラブ禁止だよ」

 舞華が咎めてひたりは忠司から離れる。

「ごめんて。……ってあれ? あっちの二人はどうしたんだろ?」

「ん?」

 ひたりに言われて、舞華も純也と里奈に目をやる。固まったままの二人に「あー、そっか」と言わんばかりの顔をした。舞華はひたりに目線を送ると、ひたりはこくんと頷いた。

「えーっとね、まあ、見てのとおりだよ。この二人は付き合ってるの」

「え、あっ、ま、まあ、そうでしょうね……」

「はわわ……」

 純也は動揺し、里奈は顔を真っ赤にして茹っていた。今までそういう素振りを見せなかったため、驚いてもしょうがなかった。

「まあ、そういうわけだから。あんまり気にしないであげて」

「りょ、了解です……」

「あ、でも今みたいなことを部活中にしてたら私に言ってね。後で鉄拳をお見舞いしとくから」

「そういうわけだから。舞華が気付いてなかったら見逃してね」

「こーら!」

 逃げるひたりと追う舞華。忠司はその様子を見て、頭を抱えていた。

「すまんな。ひたりには自重するように俺からも言っておくから」

「あ、はい……」

 そんな騒動もありながらも楽しく部活のある日常は流れていった。大体は真面目に練習する純也と、自分のペースで頑張る里奈、サポートしてくれる舞華と冗談交じりで場をにぎやかすひたりとそのブレーキ役の忠司。そんな感じで楽しくも充実した日々が過ぎていった。

 ある日、純也が部室に入ると珍しく忠司一人だった。いつもなら車椅子を押すのは自分の役目とばかりにひたりがセットでいたので、意外だった。

「今日は國上先輩と一緒じゃないんですね」

「ああ、今日あいつは風邪でね。休みだよ」

「そうなんすね」

 しばしの沈黙が場を支配する。いつもならひたりが話題を提供してくれていたのだが、今この場にはいない。純也がちょっと気まずいな、と思っていると忠司から沈黙を破ってくれた。

「もう部活には慣れたかい?」

「え、あ、はい。おかげさまで」

「そう、それはよかった」

 会話終了。それではまずいと思い、純也が気になっていたことを質問してみた。

「あの、佛圓先輩は國上先輩とお付き合いされてるんですよね?」

「ん? ああ、そうだよ」

「ちょっとお聞きしたいんですけど、付き合ってるなら部活より、その、なんと言いますか……。で、デートしたいな、とか。思ったりしないんですか?」

 こと恋愛経験がない純也にとって、「付き合ってる」や「デート」とは無縁の世界で生きてきたので、言葉に詰まりながら尋ねる。すると、忠司は少し曇った表情を浮かべ、すぐに元の優しい顔に戻り、答えてくれた。

「……ここだけの話にしてくれるかい?」

「え?」

 いつもラブラブな二人を見ていたからか、純也はてっきり「そりゃしたいよ」くらい言ってくるものかと思っていたが、何か様子がおかしかった。

「実は、ひたりが俺と付き合ってくれてるのは愛情があるからじゃない。俺に対しての贖罪だと思ってるんだよ」