里奈はおずおずと純也と少し離れた席に座る。顔は伏せられて、なんだか咎めているような構図になってしまった。
「朝比奈さんさあ」
「は、はいっ!」
案の定緊張している里奈。そんな彼女に対し、純也はあっさりした調子で淡々と話しかける。
「なんで敬語? 同い年なんだから普通にしゃべればいいのに」
「え、あ、そ、そうですね……」
「ほら、また」
純也は指をさし指摘する。すると里奈は生唾を飲み込む。第三者から見れば、いじめの現場にも見える光景だった。しかし、純也はズカズカと言葉を言い放つ。
「まあいいや。で、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「な、なんでしょう……」
「朝比奈さんって運動部のどんなところに惹かれたの?」
「え?」
想像していなかったであろう質問が飛び込み、面食らっているようだった。
「いや、単純な好奇心なんだけどさ。俺は運動が好きだから憧れっていうか、そういう気持ちがよくわからないんだ。まあ憧れの選手がいるっていう意味ではバスケにも憧れがあってやってたのかもだけど」
純也は少しづつ自分語りを始めていく。
「俺さ、高校生になってもバスケ漬けの生活を送るんだろうなーって思ってたんだ。でもできなくなっちった。事故で足やっちゃってさ。もうどうでもいいやって時に中条先輩に誘われてここに来てさ。これもアリかなって思って頑張ろうと思ってんだ」
純也が話している間、里奈は静かに聞いていた。純也は頭をポリポリ掻きながら、次の言葉を探していく。
「あー、つまり何が言いたいかっていうと。うーん。俺はここに居場所を求めてるんだと思う。今の俺でもできることがあるって思いたくて」
「…………」
「それでさ、朝比奈さんは運動部に憧れるくらいだから運動自体は苦手なの?」
「え、えっと、その、ごめんなさい……」
「謝ること何もないでしょ。別に責めてるわけじゃなくて、どうして苦手なスポーツの世界に憧れたのか気になっただけなんだ」
「わたしが、スポーツに憧れたのは……」
里奈がポツリと言葉を零していく。
「……わたしが元々運動部に所属していたから、かな」
今度は純也が黙った。こういう時、相手の言葉を遮ってはいけないと思ったからだ。純也の視線は里奈の目をじっと見つめる。里奈はちょこちょこ視線を外しながらも、話すときだけはしっかり純也の目を見返していた。
「中学の頃、テニス部に入ってたんだけど、練習についていけなくてやめちゃったの……」
純也は話を聞いて、とある部員を思い出していた。全国に行くにはそれ相応の練習量を要求される。全員が全員ついてこれるわけではないので、辞めていく部員も少なくはなかった。辞めていく部員の気持ちは純也には理解できなかったが、それを責めるようなことは考えたこともなかった。他人のことより自分のことで精いっぱいだったからだ。
「でも、友達は続けてて……。汗をかいて全力でラケットを振る友達が羨ましかったの」
「どんなところが羨ましかったの?」
そこまで沈黙していた純也がそっと質問する。里奈は、ビクビク怯えることなくしっかり考えて言葉を紡いでいく。
「自分にできなかったことができるところ、かな」
「そっか」
この感覚は純也にも理解できた。プロ選手の動きを見て真似しようとしても最初は上手くいかない。当然のことなのだが、それがたまらなく悔しかった。多分、里奈も本当なら部活を続けたかったのだろう。でも途中で挫折してしまった。でも今度こそと意を決してゆるスポ部へ入部したのだろう。
しばらく沈黙が流れた後、純也はガタっと席を立ち里奈に微笑む。
「なりたい自分になるために一歩踏み出した朝比奈さんは、ちゃんと輝いて見えるよ」
そう言って鞄を持って「じゃ」とだけ言って部室を後にする純也。その場に残された里奈はポカンとしていたが、我に返ると顔を真っ赤にしてうずくまる。
――ちゃんと輝いて見える
その言葉が頭の中でぐるぐる回って反芻する。誰かに認められるってこんなに気持ちいいのかと実感する。そんな言葉をかけてくれた純也の気持ちを裏切らないためにも、精一杯頑張らないといけない。
「すぅーっ……。よしっ!」
里奈は自分の頬をパチンと叩き、顔をあげた。
「朝比奈さんさあ」
「は、はいっ!」
案の定緊張している里奈。そんな彼女に対し、純也はあっさりした調子で淡々と話しかける。
「なんで敬語? 同い年なんだから普通にしゃべればいいのに」
「え、あ、そ、そうですね……」
「ほら、また」
純也は指をさし指摘する。すると里奈は生唾を飲み込む。第三者から見れば、いじめの現場にも見える光景だった。しかし、純也はズカズカと言葉を言い放つ。
「まあいいや。で、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「な、なんでしょう……」
「朝比奈さんって運動部のどんなところに惹かれたの?」
「え?」
想像していなかったであろう質問が飛び込み、面食らっているようだった。
「いや、単純な好奇心なんだけどさ。俺は運動が好きだから憧れっていうか、そういう気持ちがよくわからないんだ。まあ憧れの選手がいるっていう意味ではバスケにも憧れがあってやってたのかもだけど」
純也は少しづつ自分語りを始めていく。
「俺さ、高校生になってもバスケ漬けの生活を送るんだろうなーって思ってたんだ。でもできなくなっちった。事故で足やっちゃってさ。もうどうでもいいやって時に中条先輩に誘われてここに来てさ。これもアリかなって思って頑張ろうと思ってんだ」
純也が話している間、里奈は静かに聞いていた。純也は頭をポリポリ掻きながら、次の言葉を探していく。
「あー、つまり何が言いたいかっていうと。うーん。俺はここに居場所を求めてるんだと思う。今の俺でもできることがあるって思いたくて」
「…………」
「それでさ、朝比奈さんは運動部に憧れるくらいだから運動自体は苦手なの?」
「え、えっと、その、ごめんなさい……」
「謝ること何もないでしょ。別に責めてるわけじゃなくて、どうして苦手なスポーツの世界に憧れたのか気になっただけなんだ」
「わたしが、スポーツに憧れたのは……」
里奈がポツリと言葉を零していく。
「……わたしが元々運動部に所属していたから、かな」
今度は純也が黙った。こういう時、相手の言葉を遮ってはいけないと思ったからだ。純也の視線は里奈の目をじっと見つめる。里奈はちょこちょこ視線を外しながらも、話すときだけはしっかり純也の目を見返していた。
「中学の頃、テニス部に入ってたんだけど、練習についていけなくてやめちゃったの……」
純也は話を聞いて、とある部員を思い出していた。全国に行くにはそれ相応の練習量を要求される。全員が全員ついてこれるわけではないので、辞めていく部員も少なくはなかった。辞めていく部員の気持ちは純也には理解できなかったが、それを責めるようなことは考えたこともなかった。他人のことより自分のことで精いっぱいだったからだ。
「でも、友達は続けてて……。汗をかいて全力でラケットを振る友達が羨ましかったの」
「どんなところが羨ましかったの?」
そこまで沈黙していた純也がそっと質問する。里奈は、ビクビク怯えることなくしっかり考えて言葉を紡いでいく。
「自分にできなかったことができるところ、かな」
「そっか」
この感覚は純也にも理解できた。プロ選手の動きを見て真似しようとしても最初は上手くいかない。当然のことなのだが、それがたまらなく悔しかった。多分、里奈も本当なら部活を続けたかったのだろう。でも途中で挫折してしまった。でも今度こそと意を決してゆるスポ部へ入部したのだろう。
しばらく沈黙が流れた後、純也はガタっと席を立ち里奈に微笑む。
「なりたい自分になるために一歩踏み出した朝比奈さんは、ちゃんと輝いて見えるよ」
そう言って鞄を持って「じゃ」とだけ言って部室を後にする純也。その場に残された里奈はポカンとしていたが、我に返ると顔を真っ赤にしてうずくまる。
――ちゃんと輝いて見える
その言葉が頭の中でぐるぐる回って反芻する。誰かに認められるってこんなに気持ちいいのかと実感する。そんな言葉をかけてくれた純也の気持ちを裏切らないためにも、精一杯頑張らないといけない。
「すぅーっ……。よしっ!」
里奈は自分の頬をパチンと叩き、顔をあげた。