体育館にて。
当然ながら他の部活も活気づきながら活動していた。そんな体育館の隅っこで純也たちは集まっていた。
「さて、じゃあ新入生の二人はどういう動きかを見てもらいます」
そう言って舞華は、ボールを持ってひたりと向き合う。そして腰を落とし、本当にスポーツの一種なのか疑うほどゆっくりした動きでボールをふわっと投げる。そしてひたりもボールをキャッチする際、バシッと取らずに音が鳴らないようにスッと受け取る。
「へぇ……」
純也は一連の動きを見てベビーバスケを理解しようと努めていた。自分が部室でキャッチした際にはボールに泣かれたが、二人のパスでは鳴き声が上がらなかった。
自分ならできるだろうかと考える。だが、すぐにできるようになるまで頑張ればいいと頭を切り替える。
その後、ひたりはボールを忠司の持った揺り籠に向けてやはりそっと投げ入れる。そして見事ボールは揺り籠の中へすぽっと入った。
「どう? これで二得点になるわ。ちなみに授乳ゾーンていう、まあいわゆるバスケで言うスリーポイントラインの外から投げて入れば三点よ」
「へえ。スリーもあるんですね」
「かなり難しいよ~。あ、あとこれはゆるスポだから相手チームは相手の授乳ゾーンに入れないから注意ね」
「なるほど、ポストプレーはなしってことですね」
「そういうこと。ぶつかったりすると危ないからね」
「徐々にですが把握してきました」
「お、さすが元バスケ部。呑み込みが早いねえ。朝比奈ちゃんはどう?」
急に話を振られ、またもビクっと体を震わせる里奈。
「ひゃっ! い、いえ、ま、まだちょっと……」
「まあそうだよねえ。運動苦手なんだっけ?」
「は、はいぃ……」
そこで純也は話題を広げようと試みる。
「朝比奈さんはどうしてゆるスポ部に?」
「ひゃうっ!」
やはり警戒されているのか、声をかけただけで縮こまってしまった。
「ご、ごめん! えーっと……。俺ってそんなに怖い?」
純也は高校一年生としては高い身長である。しかし、バスケ選手としては平均くらいの高さで、そのためいわゆるフォワードという攻めるのが仕事のポジションにいた。それに対し、里奈は女性という点を除いてもかなり小柄である。彼女から見れば、純也は十分な巨人に見えることだろう。純也もそれを気にして意識して努めて優しめに声をかけたが失敗に終わっていた。
「朝比奈ちゃんはねー。運動部に憧れてたらしいよ。でもどの部活も練習とかってハードじゃん? そこで私がゆるスポの話を持ち掛けたらオッケーしてくれたのよ」
舞華が代わりに答えてくれた。それを肯定するように、里奈はうんうんと頷いていた。
「そっか。じゃあお互い頑張ろうな!」
純也は握手しようと手を伸ばすが、里奈は逆に一歩下がってしまう。純也は苦笑いしながら出した手を引っ込める。
「なはは~。まあすぐに仲良くしろとは言わないけど新入生同士なんだから肩ひじ張らずにね~」
こうして雲行きは怪しいながらも始動するゆるスポ部だった。
その後は実際にボールを持ってパスの練習やシュート練をする。そうこうしているとあっという間に放課後になった。
「お、もうこんな時間か。じゃあ今日はここまで! お疲れ様でした!」
舞華が号令をかけると一同がお疲れさまと言って労いあう。懐かしい雰囲気に、純也はテンションが上がっていた。
「どうだった? やっていけそう?」
舞華が純也と里奈に声をかける。二人ともバテた様子もなく、各々やる気をアピールする。
「ぶっちゃけ余裕っすね。思った以上に足に負担があるわけじゃないので続けられそうです」
「わ、わたしもなんとかついていけそうです!」
二人の返事を聞いて、満足そうに笑う舞華。その表情を見て、純也は素朴な疑問を呈した。
「中条先輩はなぜ、ゆるスポ部を作ろうと思ったんですか?」
舞華は一瞬表情を曇らせた後、いつもの明るい顔に戻り理由を明かしてくれた。
「ひたりんいるでしょ? 高校入ったときからの友達なんだけど、いっつも佛圓くんの世話してて大変そうだなーって思ってさ。そんなんじゃせっかくの高校生活が青から灰色になっちゃうと思ってね。だからみんなが楽しめる部活を作ろうって思って、ね」
「國上先輩はなぜ佛圓先輩の世話を?」
「ああ、あの二人、幼なじみなんだよ」
純也は、「ああ、なるほど」と納得した。いつから忠司が車椅子生活なのかわからなかったが、ひたり含めてみんな優しい先輩ばかりだ。幼なじみならほっとかないだろうと納得した。
疑問も解け、片づけようとする純也。しかし、舞華に止められる。
「新入生二人は帰っていいよ。片づけは私がやるから」
「え、でも三人じゃ大変じゃないですか。俺も手伝いますよ」
純也の申し出を舞華はピシャリと止める。
「いいのいいの。私がやりたくてやってるだけだし。それにひたりんと佛圓くんがいれば十分だし」
「いえ、こういう雑務を覚えるのも新人のやるべきことなので」
純也が引き下がらないでいると、舞華がはぁっとため息をつく。
「純也くんは足の調子がいいかまだわからないから無理は禁止! あと朝比奈ちゃんもいきなり雑用なんてしてもつまんないでしょ? こんなのいつでも覚えられるんだから今日は疲れた体を休めてね」
先輩を差し置いて帰るのは気が引けたが、これ以上こっちも食い下がるとそれはそれで邪魔になりそうなので大人しく引き下がることにする。
「……わかりました。では失礼します」
純也は丁寧にお辞儀してその場を後にする。里奈も慌てて純也の後を追った。部室へ戻り、学生鞄を担いで帰宅しようとする。
「じゃあお疲れ様」
「あ、う、うん……。お疲れ様です……」
やはり純也相手には固くなる里奈。そこで純也は適当な椅子にドカッと座る。
「ねえ、今って時間ある?」
純也が里奈の目をじっと見て尋ねる。一方里奈の方は目が泳ぎっぱなしだった。明らかに動揺しているのが見て取れる。
「ちょっと話さない? 親睦を深めるってことで。無理にとは言わないけど」
あくまでいつもよりゆっくりと、そして声のトーン高めで誘う純也。あたふたする里奈だったが、最終的に小さな声で「うん……」と答えた。
「じゃあ座りなよ。立ってるとしんどいでしょ?」
こうして新入生だけの秘密の放課後が始まった。
当然ながら他の部活も活気づきながら活動していた。そんな体育館の隅っこで純也たちは集まっていた。
「さて、じゃあ新入生の二人はどういう動きかを見てもらいます」
そう言って舞華は、ボールを持ってひたりと向き合う。そして腰を落とし、本当にスポーツの一種なのか疑うほどゆっくりした動きでボールをふわっと投げる。そしてひたりもボールをキャッチする際、バシッと取らずに音が鳴らないようにスッと受け取る。
「へぇ……」
純也は一連の動きを見てベビーバスケを理解しようと努めていた。自分が部室でキャッチした際にはボールに泣かれたが、二人のパスでは鳴き声が上がらなかった。
自分ならできるだろうかと考える。だが、すぐにできるようになるまで頑張ればいいと頭を切り替える。
その後、ひたりはボールを忠司の持った揺り籠に向けてやはりそっと投げ入れる。そして見事ボールは揺り籠の中へすぽっと入った。
「どう? これで二得点になるわ。ちなみに授乳ゾーンていう、まあいわゆるバスケで言うスリーポイントラインの外から投げて入れば三点よ」
「へえ。スリーもあるんですね」
「かなり難しいよ~。あ、あとこれはゆるスポだから相手チームは相手の授乳ゾーンに入れないから注意ね」
「なるほど、ポストプレーはなしってことですね」
「そういうこと。ぶつかったりすると危ないからね」
「徐々にですが把握してきました」
「お、さすが元バスケ部。呑み込みが早いねえ。朝比奈ちゃんはどう?」
急に話を振られ、またもビクっと体を震わせる里奈。
「ひゃっ! い、いえ、ま、まだちょっと……」
「まあそうだよねえ。運動苦手なんだっけ?」
「は、はいぃ……」
そこで純也は話題を広げようと試みる。
「朝比奈さんはどうしてゆるスポ部に?」
「ひゃうっ!」
やはり警戒されているのか、声をかけただけで縮こまってしまった。
「ご、ごめん! えーっと……。俺ってそんなに怖い?」
純也は高校一年生としては高い身長である。しかし、バスケ選手としては平均くらいの高さで、そのためいわゆるフォワードという攻めるのが仕事のポジションにいた。それに対し、里奈は女性という点を除いてもかなり小柄である。彼女から見れば、純也は十分な巨人に見えることだろう。純也もそれを気にして意識して努めて優しめに声をかけたが失敗に終わっていた。
「朝比奈ちゃんはねー。運動部に憧れてたらしいよ。でもどの部活も練習とかってハードじゃん? そこで私がゆるスポの話を持ち掛けたらオッケーしてくれたのよ」
舞華が代わりに答えてくれた。それを肯定するように、里奈はうんうんと頷いていた。
「そっか。じゃあお互い頑張ろうな!」
純也は握手しようと手を伸ばすが、里奈は逆に一歩下がってしまう。純也は苦笑いしながら出した手を引っ込める。
「なはは~。まあすぐに仲良くしろとは言わないけど新入生同士なんだから肩ひじ張らずにね~」
こうして雲行きは怪しいながらも始動するゆるスポ部だった。
その後は実際にボールを持ってパスの練習やシュート練をする。そうこうしているとあっという間に放課後になった。
「お、もうこんな時間か。じゃあ今日はここまで! お疲れ様でした!」
舞華が号令をかけると一同がお疲れさまと言って労いあう。懐かしい雰囲気に、純也はテンションが上がっていた。
「どうだった? やっていけそう?」
舞華が純也と里奈に声をかける。二人ともバテた様子もなく、各々やる気をアピールする。
「ぶっちゃけ余裕っすね。思った以上に足に負担があるわけじゃないので続けられそうです」
「わ、わたしもなんとかついていけそうです!」
二人の返事を聞いて、満足そうに笑う舞華。その表情を見て、純也は素朴な疑問を呈した。
「中条先輩はなぜ、ゆるスポ部を作ろうと思ったんですか?」
舞華は一瞬表情を曇らせた後、いつもの明るい顔に戻り理由を明かしてくれた。
「ひたりんいるでしょ? 高校入ったときからの友達なんだけど、いっつも佛圓くんの世話してて大変そうだなーって思ってさ。そんなんじゃせっかくの高校生活が青から灰色になっちゃうと思ってね。だからみんなが楽しめる部活を作ろうって思って、ね」
「國上先輩はなぜ佛圓先輩の世話を?」
「ああ、あの二人、幼なじみなんだよ」
純也は、「ああ、なるほど」と納得した。いつから忠司が車椅子生活なのかわからなかったが、ひたり含めてみんな優しい先輩ばかりだ。幼なじみならほっとかないだろうと納得した。
疑問も解け、片づけようとする純也。しかし、舞華に止められる。
「新入生二人は帰っていいよ。片づけは私がやるから」
「え、でも三人じゃ大変じゃないですか。俺も手伝いますよ」
純也の申し出を舞華はピシャリと止める。
「いいのいいの。私がやりたくてやってるだけだし。それにひたりんと佛圓くんがいれば十分だし」
「いえ、こういう雑務を覚えるのも新人のやるべきことなので」
純也が引き下がらないでいると、舞華がはぁっとため息をつく。
「純也くんは足の調子がいいかまだわからないから無理は禁止! あと朝比奈ちゃんもいきなり雑用なんてしてもつまんないでしょ? こんなのいつでも覚えられるんだから今日は疲れた体を休めてね」
先輩を差し置いて帰るのは気が引けたが、これ以上こっちも食い下がるとそれはそれで邪魔になりそうなので大人しく引き下がることにする。
「……わかりました。では失礼します」
純也は丁寧にお辞儀してその場を後にする。里奈も慌てて純也の後を追った。部室へ戻り、学生鞄を担いで帰宅しようとする。
「じゃあお疲れ様」
「あ、う、うん……。お疲れ様です……」
やはり純也相手には固くなる里奈。そこで純也は適当な椅子にドカッと座る。
「ねえ、今って時間ある?」
純也が里奈の目をじっと見て尋ねる。一方里奈の方は目が泳ぎっぱなしだった。明らかに動揺しているのが見て取れる。
「ちょっと話さない? 親睦を深めるってことで。無理にとは言わないけど」
あくまでいつもよりゆっくりと、そして声のトーン高めで誘う純也。あたふたする里奈だったが、最終的に小さな声で「うん……」と答えた。
「じゃあ座りなよ。立ってるとしんどいでしょ?」
こうして新入生だけの秘密の放課後が始まった。