「さて、これでようやく部活を始動できるわけだけど」
舞華の言葉に、純也は疑問をぶつける。
「どういうことですか?」
「いやー。ベビーバスケって五人いないとできないんだよねえ。だから君が入部してくれて本当に良かったよ」
純也は内心、呆れかえっていた。もし自分が入部しなかったらどうするともりだったんだろうか。
「まあ、結果オーライということで」
なんとも大雑把な人のようだ。先行きが不安で仕方なかった。
「とりあえず今日はベビーバスケの概要について説明するわね」
純也はバスケのことなら隅から隅まで知り尽くしているが、ベビーバスケとなると全くの初心者だ。いくらバスケの名がついていようともアドバンテージだとは思わなかった。
「まず、普通のバスケと違ってドリブルができません」
「は?」
純也は素っ頓狂な声をあげた。
ドリブル禁止? つまりパスオンリーでゴールを狙わないといけないということなのだろうか。
「次に強いパスもダメ。ボールが泣くから」
「は??」
ボールが泣く? 何を言っているんだと言わんばかりの純也。しかし舞華の説明はどんどん続いていく。
「あと細かいところだと、子煩悩と過保護っていうルールさえ知ってれば大丈夫よ」
「いやいやいや、ちょっと待ってください!」
さっきから全く訳の分からない用語が飛び出し、純也は思わずツッコミを入れる。
「ん? どうかした?」
「どうかした? じゃないですよ! なんなんですか!? その子煩悩とか過保護って!」
「あー、バスケ経験者に当てはめるなら子煩悩はトラベリング。つまり三歩以上歩くことなんだけど、こっちでは四歩からダメ。で、過保護は連続して三秒以上ボールをキープすることよ」
「な、なるほど……。で、ボールが泣くってどういうことですか?」
「そのまんまよ。ボールが泣くの」
「は???」
流石に理解できないと純也が音を上げる。ボールが泣くとはどういうことなのか。
「ふふっ、これは実際に聞いてもらったほうが早いかもね。ひたりん!」
「あいよー」
ひたりはバスケのボールを一つ、舞華に手渡す。そして
「今からパスするから受け止めてね」
「あ、はい」
言われるがまま純也は胸のところで手を三角にして受ける準備をする。舞華からボールが放たれる。勢いはやや強いが、純也にとってはどうということはない速度。しかしボールをキャッチした瞬間、
「おぎゃあ!」
「え?」
ボールが、泣いた。まさしく言葉どおり、泣いた。赤ん坊のように『おぎゃあ』と。
舞華は得意気な顔で純也を見る。
「どう? これがベビーバスケ。ベビー、つまりボールという赤ちゃんを泣かせないようにしながら優しくゴールである揺り籠まで持っていくスポーツなの。これなら激しい運動にならないでしょ?」
「た、確かに、そうですね……」
純也はまだ不安が拭えなかった。これで足を引っ張ることがあるようなら、本格的に自分はいらない存在だと証明されてしまう。そうなってしまうことが怖かった。
みるみる顔が青くなる純也。そこに、
「大丈夫。俺でさえできてるんだから」
純也の気持ちを察してか、忠司がフォローしてくれた。その気持ちが嬉しくて、純也はじんわり顔が赤くなっていく。
「まあ、聞くよりまずはやってみましょう! 体育館へ行くわよ!」
舞華はずんずんと歩を進め、部室を出る。舞華に続いてひたりが忠司の車椅子を押して部室を出て行った。
純也も出て行こうとするが、止まったままの里奈に気が付いて声をかける。
「朝比奈さん……だっけ? 行かないの?」
「ひゃっ!」
突然声をかけた訳でもないのに、里奈は過剰なほどのリアクションをした。
「ご、ごめん! どうかした?」
「い、いえ! だ、大丈夫れふ!」
めっちゃ噛んでいた。純也は悪いことをした気になって逃げるように部室を後にした。
舞華の言葉に、純也は疑問をぶつける。
「どういうことですか?」
「いやー。ベビーバスケって五人いないとできないんだよねえ。だから君が入部してくれて本当に良かったよ」
純也は内心、呆れかえっていた。もし自分が入部しなかったらどうするともりだったんだろうか。
「まあ、結果オーライということで」
なんとも大雑把な人のようだ。先行きが不安で仕方なかった。
「とりあえず今日はベビーバスケの概要について説明するわね」
純也はバスケのことなら隅から隅まで知り尽くしているが、ベビーバスケとなると全くの初心者だ。いくらバスケの名がついていようともアドバンテージだとは思わなかった。
「まず、普通のバスケと違ってドリブルができません」
「は?」
純也は素っ頓狂な声をあげた。
ドリブル禁止? つまりパスオンリーでゴールを狙わないといけないということなのだろうか。
「次に強いパスもダメ。ボールが泣くから」
「は??」
ボールが泣く? 何を言っているんだと言わんばかりの純也。しかし舞華の説明はどんどん続いていく。
「あと細かいところだと、子煩悩と過保護っていうルールさえ知ってれば大丈夫よ」
「いやいやいや、ちょっと待ってください!」
さっきから全く訳の分からない用語が飛び出し、純也は思わずツッコミを入れる。
「ん? どうかした?」
「どうかした? じゃないですよ! なんなんですか!? その子煩悩とか過保護って!」
「あー、バスケ経験者に当てはめるなら子煩悩はトラベリング。つまり三歩以上歩くことなんだけど、こっちでは四歩からダメ。で、過保護は連続して三秒以上ボールをキープすることよ」
「な、なるほど……。で、ボールが泣くってどういうことですか?」
「そのまんまよ。ボールが泣くの」
「は???」
流石に理解できないと純也が音を上げる。ボールが泣くとはどういうことなのか。
「ふふっ、これは実際に聞いてもらったほうが早いかもね。ひたりん!」
「あいよー」
ひたりはバスケのボールを一つ、舞華に手渡す。そして
「今からパスするから受け止めてね」
「あ、はい」
言われるがまま純也は胸のところで手を三角にして受ける準備をする。舞華からボールが放たれる。勢いはやや強いが、純也にとってはどうということはない速度。しかしボールをキャッチした瞬間、
「おぎゃあ!」
「え?」
ボールが、泣いた。まさしく言葉どおり、泣いた。赤ん坊のように『おぎゃあ』と。
舞華は得意気な顔で純也を見る。
「どう? これがベビーバスケ。ベビー、つまりボールという赤ちゃんを泣かせないようにしながら優しくゴールである揺り籠まで持っていくスポーツなの。これなら激しい運動にならないでしょ?」
「た、確かに、そうですね……」
純也はまだ不安が拭えなかった。これで足を引っ張ることがあるようなら、本格的に自分はいらない存在だと証明されてしまう。そうなってしまうことが怖かった。
みるみる顔が青くなる純也。そこに、
「大丈夫。俺でさえできてるんだから」
純也の気持ちを察してか、忠司がフォローしてくれた。その気持ちが嬉しくて、純也はじんわり顔が赤くなっていく。
「まあ、聞くよりまずはやってみましょう! 体育館へ行くわよ!」
舞華はずんずんと歩を進め、部室を出る。舞華に続いてひたりが忠司の車椅子を押して部室を出て行った。
純也も出て行こうとするが、止まったままの里奈に気が付いて声をかける。
「朝比奈さん……だっけ? 行かないの?」
「ひゃっ!」
突然声をかけた訳でもないのに、里奈は過剰なほどのリアクションをした。
「ご、ごめん! どうかした?」
「い、いえ! だ、大丈夫れふ!」
めっちゃ噛んでいた。純也は悪いことをした気になって逃げるように部室を後にした。