「ゆるスポーツ……?」
聞いたことのない単語に、純也はキョトンとしていた。
「まあ、知らないよね。ちなみにゆるスポーツの中でも私たちがするのはベビーバスケっていう種目だよ」
「いやいや、ちょっと待ってください! 情報量が多くてついていけないんですが!」
「うん? ああ、まあそうだよね」
舞華はガサゴソと自分の鞄を漁って一枚のチラシを手渡してきた。
「興味があったら放課後、部室へ来てよ。歓迎するから」
そう言って舞華は他の部員集めのためか去っていった。残された純也はチラシに目をやる。そこには確かに『ゆるスポ部入部歓迎!』と書かれていた。さらにはバスケのボールらしき絵が描かれており、舞華の言ったとおりバスケをする部活なのだろう。
「だから俺にバスケは――」
くしゃっとチラシを握る純也。しかし、バスケの絵から目が離せない。まだ自分の中に未練があったことに、純也自身が一番驚いていた。
「クソっ……、ちょっと覗くだけだからな」
誰に対してというわけでもない言い訳をし、教室へ向かった。
放課後、部室へ足を運ぶ純也。部室のドアの前で深呼吸する。頬を叩き、気合を入れて部室のドアをノックする。
「どうぞー」
中から舞華の声が聞こえた。純也はガチャリとドアを開け中に入る。そこには四人の男女が純也に視線を送る。純也は臆することなくビシッと背筋を伸ばして挨拶する。
「失礼します!」
「おー、やっぱ体育会系だねえ。いい声してるよ」
「ほんとほんと。いい人材連れてきたじゃん舞華~」
「でしょでしょ?」
おそらく上級生だろう。舞華とフランクに話す人が二人と、その前に立っているガッチガチに緊張している女性もいる。恐らく自分と同じ一年生なのだろう。
「自分、城崎純也と言います! よろしくお願いします!」
純也は久しぶりの部活モード全開の挨拶をし、周囲を呆気に取らせた。
「……っぷ! あっははっ! そんなガチの挨拶はいいよ。ここはゆるスポ部なんだからゆる~くいこう」
気さくに話してくれた男性を見ると、椅子に座っていた。ただ、よく見ると普通の椅子でなく、車椅子だった。
純也が見つめていたからか、男性の方から口を開いてくれた。
「ああ、これかい? 君の想像どおり、車椅子だよ。これでも一応プレイヤーなんだぜ。一緒にプレイできることを願っているよ」
「は、はい!」
純也は、車椅子の人もできるスポーツと言われ、最初障がい者スポーツの部活なのかと思った。しかし、他のメンツはぱっと見そんな感じではない。もちろん見てわかる障がいじゃない可能性もあったので、純也の頭はこんがらがるばかりだった。
「おっとすまない。自己紹介がまだだったね。俺は佛圓忠司だ。よろしく」
「ついでだし、あたしも挨拶しとこっかな。ハロー城崎少年。國上ひたりだよん。よろ~」
挨拶してくれたのはその二名だけで、残りの女子はうつむいたままだった。代わりにと舞華が紹介してくれる。
「この子は朝比奈里奈ちゃん。君と同じ一年生だ。仲良くしてあげてね」
「はい!」
返事だけは元気に返す純也だったが、結局何をする部活なのかわからなかった。なのでこっちから尋ねることにする。
「質問失礼します! ここは一体なにをする部活なのでしょうか!」
純也の質問に、忠司とひたりはポカンとした表情で口を開けていた。
「あー、まだ説明してなかったね。よーし、じゃあ教えてあげよう!」
元気よく話し始めようとする舞華の頭をひたりがポカリと叩く。
「いった~! なにすんのひたりん!」
「なにすんの、じゃないでしょ! ちゃんと説明してから勧誘しなって! これで入部しないって言われたらチーム組めないじゃん!」
「それは私の話術でなんとかするって~。だいじょぶだいじょぶ」
「なにが大丈夫なんだか……」
頭を抱えるひたりをよそに、舞華が詳しい説明を始めた。
「改めまして、ゆるスポーツ部っていう部活だよ! 略してゆるスポって言うんだけど、ゆるスポの中にもたくさんの種目があって、私たちがやろうとしてるのはベビーバスケっていう種目だよ」
それはチラシにも書いてあったので、純也も知っていた。
「あの、ゆるスポっていうのは、普通のスポーツと何が違うのでしょうか?」
その質問を待ってましたとばかりに、舞華はふふんと鼻息を鳴らす。
「簡単にいうとゆるスポっていうのは誰でも参加できるスポーツなんだよ」
「誰でも……」
「そういうこと。だから老若男女問わないし、さらに言うと俺みたいな足に障がいのある人でも一緒にプレイできるんだ」
舞華に続き、忠司が補足説明してくれる。
そこで純也は納得した。
「理解できた? つまり、激しい運動ができない君も、ゆるスポなら参加できるんだよ」
純也の身の毛がブワッと逆立つ。もし本当ならもう一度スポーツができる。それは純也にとって願ったり叶ったりの申し出だった。
「詳しいルール説明とかは入部してからにするとして……、どう? 興味出た?」
舞華が不敵な笑みで純也の目を射抜いてくる。この顔はあれだ。純也ほどの体育会系なら運動することの楽しさを知っていて、それを奪われ、もう一度あの時の熱を味わえるなら絶対に入部を断らないと知っている目だ。
純也はスッと目を閉じ、中学の頃を思い出す。自分の限界に挑戦できる楽しさ。しかもできないと思っていたスポーツで。ならば答えは決まっていた。
「入部します。今後とも、よろしくお願いします!」
舞華は八重歯を覗かせ、忠司とひたりはハイタッチを決めていた。
舞華は純也の前に歩み寄って手を伸ばす。
「ようこそ。ゆるスポ部へ」
純也は久しぶりの笑顔と共に舞華の手を取った。
聞いたことのない単語に、純也はキョトンとしていた。
「まあ、知らないよね。ちなみにゆるスポーツの中でも私たちがするのはベビーバスケっていう種目だよ」
「いやいや、ちょっと待ってください! 情報量が多くてついていけないんですが!」
「うん? ああ、まあそうだよね」
舞華はガサゴソと自分の鞄を漁って一枚のチラシを手渡してきた。
「興味があったら放課後、部室へ来てよ。歓迎するから」
そう言って舞華は他の部員集めのためか去っていった。残された純也はチラシに目をやる。そこには確かに『ゆるスポ部入部歓迎!』と書かれていた。さらにはバスケのボールらしき絵が描かれており、舞華の言ったとおりバスケをする部活なのだろう。
「だから俺にバスケは――」
くしゃっとチラシを握る純也。しかし、バスケの絵から目が離せない。まだ自分の中に未練があったことに、純也自身が一番驚いていた。
「クソっ……、ちょっと覗くだけだからな」
誰に対してというわけでもない言い訳をし、教室へ向かった。
放課後、部室へ足を運ぶ純也。部室のドアの前で深呼吸する。頬を叩き、気合を入れて部室のドアをノックする。
「どうぞー」
中から舞華の声が聞こえた。純也はガチャリとドアを開け中に入る。そこには四人の男女が純也に視線を送る。純也は臆することなくビシッと背筋を伸ばして挨拶する。
「失礼します!」
「おー、やっぱ体育会系だねえ。いい声してるよ」
「ほんとほんと。いい人材連れてきたじゃん舞華~」
「でしょでしょ?」
おそらく上級生だろう。舞華とフランクに話す人が二人と、その前に立っているガッチガチに緊張している女性もいる。恐らく自分と同じ一年生なのだろう。
「自分、城崎純也と言います! よろしくお願いします!」
純也は久しぶりの部活モード全開の挨拶をし、周囲を呆気に取らせた。
「……っぷ! あっははっ! そんなガチの挨拶はいいよ。ここはゆるスポ部なんだからゆる~くいこう」
気さくに話してくれた男性を見ると、椅子に座っていた。ただ、よく見ると普通の椅子でなく、車椅子だった。
純也が見つめていたからか、男性の方から口を開いてくれた。
「ああ、これかい? 君の想像どおり、車椅子だよ。これでも一応プレイヤーなんだぜ。一緒にプレイできることを願っているよ」
「は、はい!」
純也は、車椅子の人もできるスポーツと言われ、最初障がい者スポーツの部活なのかと思った。しかし、他のメンツはぱっと見そんな感じではない。もちろん見てわかる障がいじゃない可能性もあったので、純也の頭はこんがらがるばかりだった。
「おっとすまない。自己紹介がまだだったね。俺は佛圓忠司だ。よろしく」
「ついでだし、あたしも挨拶しとこっかな。ハロー城崎少年。國上ひたりだよん。よろ~」
挨拶してくれたのはその二名だけで、残りの女子はうつむいたままだった。代わりにと舞華が紹介してくれる。
「この子は朝比奈里奈ちゃん。君と同じ一年生だ。仲良くしてあげてね」
「はい!」
返事だけは元気に返す純也だったが、結局何をする部活なのかわからなかった。なのでこっちから尋ねることにする。
「質問失礼します! ここは一体なにをする部活なのでしょうか!」
純也の質問に、忠司とひたりはポカンとした表情で口を開けていた。
「あー、まだ説明してなかったね。よーし、じゃあ教えてあげよう!」
元気よく話し始めようとする舞華の頭をひたりがポカリと叩く。
「いった~! なにすんのひたりん!」
「なにすんの、じゃないでしょ! ちゃんと説明してから勧誘しなって! これで入部しないって言われたらチーム組めないじゃん!」
「それは私の話術でなんとかするって~。だいじょぶだいじょぶ」
「なにが大丈夫なんだか……」
頭を抱えるひたりをよそに、舞華が詳しい説明を始めた。
「改めまして、ゆるスポーツ部っていう部活だよ! 略してゆるスポって言うんだけど、ゆるスポの中にもたくさんの種目があって、私たちがやろうとしてるのはベビーバスケっていう種目だよ」
それはチラシにも書いてあったので、純也も知っていた。
「あの、ゆるスポっていうのは、普通のスポーツと何が違うのでしょうか?」
その質問を待ってましたとばかりに、舞華はふふんと鼻息を鳴らす。
「簡単にいうとゆるスポっていうのは誰でも参加できるスポーツなんだよ」
「誰でも……」
「そういうこと。だから老若男女問わないし、さらに言うと俺みたいな足に障がいのある人でも一緒にプレイできるんだ」
舞華に続き、忠司が補足説明してくれる。
そこで純也は納得した。
「理解できた? つまり、激しい運動ができない君も、ゆるスポなら参加できるんだよ」
純也の身の毛がブワッと逆立つ。もし本当ならもう一度スポーツができる。それは純也にとって願ったり叶ったりの申し出だった。
「詳しいルール説明とかは入部してからにするとして……、どう? 興味出た?」
舞華が不敵な笑みで純也の目を射抜いてくる。この顔はあれだ。純也ほどの体育会系なら運動することの楽しさを知っていて、それを奪われ、もう一度あの時の熱を味わえるなら絶対に入部を断らないと知っている目だ。
純也はスッと目を閉じ、中学の頃を思い出す。自分の限界に挑戦できる楽しさ。しかもできないと思っていたスポーツで。ならば答えは決まっていた。
「入部します。今後とも、よろしくお願いします!」
舞華は八重歯を覗かせ、忠司とひたりはハイタッチを決めていた。
舞華は純也の前に歩み寄って手を伸ばす。
「ようこそ。ゆるスポ部へ」
純也は久しぶりの笑顔と共に舞華の手を取った。