___期末テストは教科数も増え範囲も広い。日向に全てを教え終わる頃には日が落ちかけていた

「悪いな。遅くなった、送るよ」
さすがに遅くなって悪いのか日向からそんな言葉が出てきた
私は1回断ったが日向に聞く耳をもっているはずがなかった

校舎を出て、2人で歩いていると日向は「お!一番星みーっけ!」とはしゃいでいる

第一印象は飾らない性格だと思っていた
今はそのへんの男の子と変わらないんじゃないかと思える

「なあ。テストのことも素でいれる場も作ってくれる君には感謝してる、だからなんかあったら俺が力になるから、一人になろうとかすんなよ」と真面目な声でそう言ってくる

少し何かが出そうだった
それがなんなのかは私は分からない

返す言葉もなくてただ無言で歩く道
でも日向の嘘偽りのない優しさで、私は少し素直になれた気がする

家に着くと「また明日」と声をかける日向
まだ一緒に居たいそう思えたけど、家をみるとその言葉さえかき消されてゆく

手を振り返して意を決して玄関を開けた
すると平手打ちをされたあの日と同じように予想外の父がいた

勉強するって連絡したのに…

どうして…?

もうダメだと悟った
平手打ちをされて罵倒されていく

『一人になろうとかすんなよ』
その言葉がふと出てくる。少し素直になれたんじゃなかったの?

「私は…私はもう高校生なの…もう…もう自由に生きさせてよ…ほら私は“健康”でしょ?」
これが精一杯だった…怒り心頭の父は罵倒のヒートアップしていく
耐えきれない私は外にでた

静止の言葉が聞こえたが知らない

私は走った、歩いた道を戻るように。
そうすればいる気がしたんだ

_____彼が。

「日向っ」
私は息を切らして、さっき見送った背中に声をかけた

彼はゆっくりと振り返って「やっと頼ってくれた」と言葉を零してギュッと抱きしめてくれた

「日向ぁ…日向ぁ…」
私は彼の名前を繰り返していた
“雨”がポツリポツリと私の頬を濡らす

“濡れることを知らない”日向はそんな私を誰にも見せないように抱きしめた(傘をさしてくれた)

_____何分経っただろうか、日はすっかり落ちていた

「ん、君には似合わないよ」
日向はゆっくり私の頬に伝う雨の雫を拭ってくれた


私が頷くと「何があったとかは聞く気はさらさらないよ。なんとなく気づいてたし」と日向は優しい顔をしながらそう言う

「どうして日向は…私のこと、そんなに分かるの?」
ずっと疑問だったことを投げかけた

「ん?だって言ったじゃん…君と俺は同種だって」と満月を見ながらそうポツリといった

「俺はいい子を演じ続けたから分かる。その辛さとか…その笑顔を貼り付けてる感じっていうの?」

「日向…はずっと演じてきたの?」

日向はずっと満月を見ている

「相手が望むならいつだって演じる。君が望むなら今だって演じる事だってできるよ」

お得意のスマイルを浮かべて日向はこちらを向いた。月の光に照らされる日向はどこか艶やかで、どこか寂しく見えた。

日向は陽に照らされる方が綺麗に見えた
今だってほら夕日に照らされた日向と比較した

「私は日向みたいに演じ分けてないし…それに今の私をみんな受け入れてる」

そう。ずっとそうだった。
現に、紬は今の私を受け入れて、横でニコニコしている

そもそも紬にそれ以上望む気もないし望む“必要”もない

海原 月(うなばら るな)

私は目を見開いた
日向は優しい顔で私の名を呼ぶ

「俺は最初から言ってたろ?同じ匂いがするって。しっかり知ろうとしてる人間さえ拒むな」

日向はぷいっと顔を背け、満月をみた

「いい名前だ。月…君に似合ってる」

「日向…?」

「月。“今”から逃げるな」
真剣な顔をした日向はこちらをまっすぐ見てくる

「ったく今日だけだぞ、こんなに俺が優しくしてやるのは…」

口を尖らせながら日向は拗ねたように声を出した

「君は本当に贅沢だな」

日向は私の頭をガシガシ撫でると瞳をふせて、ふっと笑った

「ほら後ろ。行ってこいよ。俺は帰る」と背を向けて手を挙げた

後ろを振り向くと涙を浮かべた母と納得していない顔の父がいた

_____もう逃げない

そう決めた私を母は力強く抱きしめた
父は何も言わない

逃げないって決めたのに長年ついた癖は抜けない
そのまま私はまたいい子を演じたのだ

主人公なら変わるきっかけになったのに私はどうしても変われない

ずっといい子のフリをシツヅケル

日向は私のことを“スベテミヌケナイ”