新月の夜の日

紺色の雲はゆっくりと流れていく

そんな日に私は力を振り絞って座った

そしてこのノートを開いた

震える手でペンを握った

ねぇ?日向、最後のお願い聞いてよ

『私のことを忘れないで』

散った花びらは川にだって流れる

その花びらは広い広い海に流れていく

散った私を主人公にして

本当のお願いはここなのかもしれないね

_______ねぇ結局私の人生はなんだったんだろうか

病魔によって苦しんだ10年と数年

主人公になりたくて

でも無理だった

主人公にもなれないこの人生を誰かが聞いた時、鼻で笑うのだろうか

それでも私はこの人生でしか生きられなかった

心から笑ったことなんて割合でいったら2割ぐらいだったかもしれない

苦しさは8割だったかもしれない

けれどその笑った日が何よりも宝物になっていて

なにかも後悔さえも消えた

十分だって思えた

______果たしてこれは本当だろうか

十分生きたなんて言っていいの

本当は誰よりも怖くて

死にたくない

みんなと離れるのが嫌だ

失いたくない

弱音なんていくらでもでてくる

1人になりたくない

ほらまたでてくる

眠ったまま明日来ないかもしれない
ご飯がいつ食べられなくなるのかもしれない
呼吸がいつとまるのか…

言い出したらキリがない

涙がポロリとでてくる
これが涙だと認識したって

怖さは消えることはない

ずっと付きまとう

______月は主人公だよ

私はハッとする

「主人公になれなかったんじゃない。なろうとしなかった」

私の声は以前にくらべて震えている

声を出すのでさえもう無理なのかもしれない

ねぇ日向、いつだって私は主人公だったのかな

どうでもいいなんて思っていた私がモブじゃなくなったのはいつから?

私は月がない夜空が広がる窓の外を見る

外にある木々の蕾はより一層大きくなっていて

もしかしたら来週から咲き始めるかもなんて話したのを思い出した

その奥、ずっと向こう
私は涙で滲んだ風景から見えた

あそこに私という名の(つき)がいてもきっと人々は認めてくれる

それでいいの

きっとそれでも()だから

ねぇ、日向

「月が綺麗ですね」

私の最期の声は

返事なんてこなくて

一人寂しく響いた

そしてやってくる(病魔)は私の最期の花を散らせた