日向が来た次の日は紬が1人でやってくるらしい

日向は部活でどうしても時間が合わないみたいだった

私は紬にも元気な姿を見せたくて少しおめかしして座っていた

そしてカラカラと開けて入ってくる紬

「月〜、会いたかったよ」

入ってくるなりそう言いながら紬は抱きついてきた

「私もだよ」

そう私も返事する

そして私達は特に内容がある話をしたわけじゃない

ただそのへんの高校の教室に響くのと変わらない話

日向がポンコツだとか
担任がウザイだとか
昨日のドラマの話だったり

本当に何の変哲もない話

私はただただ何も考えずに笑う
私の闘病生活なんて忘れるくらいに。

きっと場所が違えば切り取ることがないくらい普通の日だろう

でも私にはそんな普通の日がもう数えられるぐらいしか残されていない

だから普通にしてくれる紬の存在に救われていた

「ねぇ(つき)だよ見て見て」

紬は目を輝かせながら写真を見せた

「怪我、そんな大きくなかったんだね」

「そうなんだ〜でもここから感染したらとか…考えたら怖かった」

私達の間には沈黙が流れる

「家族になったばっかりの(つき)がいなくなるって考えた時、時間なんて関係ないくらい悲しくなるし辛かった」

紬はゆっくり話していく

「本当は時間なんて関係なんだね…好きって気持ちさえあれば人は大切な存在になっちゃう」

紬は少し黙って重たい口を開いた

「私…本当は怖い」

下を向いた紬の肩は少し震えていた

「もし扉を開けた先に月が座ってなかったら…もし連絡がもう永遠に既読にならなかったら…って上げたらキリがないくらい」

紬はずっと失う怖さに怯えていた

「いなくなるなんて信じられないの本当は。これからもずっと一緒にいるって。しょうがないなあって約束、守ってくれるんじゃないかなって」

紬の声色に涙が混じる

「でもね、ここの扉を開ける度弱っていく月が目に入って…本当なんだって」

紬の本音に私は返す言葉が見つからない

「私より怖いはずの月は笑っていて…だから普通にしていようって。日向は不器用だから隠せないだろうしご両親はもっと辛いはずだから」

紬の真っ直ぐな思いが私にささっていく

「せめて私は普通にしなきゃ、月は世話焼けるんじゃないかなって思った」

紬のおかげで私は

「空の(つき)を見る度に欠けていて、月も今こうなんだって」

笑えているのに

「どこかに消えそうで…怖くて…今も手の震えは止まんない」

紬のこと、ずっと気づけなかった

私はそっと震える手に私の手を重ねた

「私はここに居る」

そうしか言えなくて

「紬、ちゃんと前を見て?私はどこにいるの」

紬は恐る恐る顔を上げてた

「私は紬の瞳に写ってる?」

かける言葉なんて見つけられない

「私には泣いてる紬が写ってる」

でも少しでも安心してくれるなら私は言葉を意地でも見つけてくる

「…月は私の前に…いるよ」

紬は泣きながらそう言ってくれる

「怖いよね、人を失うことなんて慣れないししたくもないよね」

共感することしか出来ない私に紬は頷いてくれる

「紬が居てくれて…くだらない話をしてくれるおかげで毎日が楽しいの」

紬は目を見開いた

「やっぱり病人には気を遣うものなんでしょ?でも紬だけは普通で…私は嬉しかった」

そして紬の頭を撫でた

「私はね…ずっと普通に生きたかったの」

私は素直にそう伝えた

「普通に学生して…働いて、結婚して老いていく」

そして紬の涙を拭っていく

「そんなありきたりな人生を歩んで、この世界に溶け込むことができたらって何度も思った」

紬は何も言わずに黙って泣きながら聞いている

「どんなに願ってもそれは叶えてくれなかったのに紬はやってみせた」

ありがとうと伝えるとまたより一層紬は泣き出した

私はそんな紬をなだめていた

私のために流してくれる涙
私のために悩んでくれていた事

そして私に普通の生活

友達

全部、紬に貰った

数え切れないほど紬には感謝しなきゃならない

出会って私を選んでくれてありがとう