今日は一段と風が強い日だ

木々は大きく揺れる

私はベットの上からギャッチアップした状態でそんな外を見つめた

「月、今日の外は寒いわよ」

母は優しく笑いながら私の横にやってくる

「風が強すぎるもんね、風邪ひいちゃダメだよ」

私はそう少し力なく言った

「大丈夫、感染対策バッチリだから」

母はそう笑いながら椅子に座った

「おーさぶさぶ」

そう肩を縮こませながら部屋に入ってくるのは父だった

「早く春になればいいのにね」

私の言葉に両親は返す言葉が見つからないようだった

そうだよね、春になれば私は居ないのだから

「春の足音はしてるもんね、太陽も暖かくなってきたし」

私は続けた

「蕾も出来てるとこはチラホラみえるもん、あー綺麗な桜、咲くんだろうな」

わざとだった

わざと明るい言葉で未来を語った

「月?どうかしたの」

そんな私の姿に母は少しヒステリックを起こしそうだった

「近い未来の話をしよう」

父は少し和ませるように言った

「…私は春には居ないって分かってるよ、でも確率がゼロに等しくても…やってこない未来でも…普通に話したい」

私は最期までそのへんにいるい高校生と変わらないことをしていたい

そうなるか分からない未来を話して、馬鹿だなあって笑っていたい

両親は何も言えずに黙り込んだ

「私を気遣ってるくれているのは嬉しいしありがとう。でも私は最期まで普通に生きるの」

私は真っ直ぐ2人をみて言う

「先に逝くなんて親不孝だと思うよ。でもねいつかはみんな辿り着くところ、遅いか早いかの違いなの。私はたまたま早く選ばれてしまった」

2人は1粒、また1粒と涙を流していく

「普通に長く生きることが出来る身体でも事故は起こるし明日なんて本当は分からない」

私は笑って続ける

「そう思えば、近い未来も遠い未来も変わらないでしょ」

そう言えば母は思いっきり抱きしめてくる

その後ろを父が。

「辛い、しんどい、怖いって決めつけていたのは私たちの方だったわ」

「生きてる限り普通に生きたいって思うのが当たり前だよな」

そう2人は反省し始める

「私は2人に反省とかして欲しいんじゃないの」

私は2人を引き離した

「ただそのへんの子どもと変わらない愛情を持って接してよ。怒って泣いて笑って欲しい」

辛いのはきっと両親だって一緒だ

どう娘に接していいのかずっと悩んでいた本当は優しい両親

今だって正解は見つかっていない

だからこそコワレモノのように私に触れる

優しさだけでいるのは嬉しくない

「もっと自由に私と過ごして」

そう言えば2人とも驚いた顔をした

「側にいるだけでいいの、家族だもの。暖かい優しさは伝わるよ」

私はニッコリ笑った

「そうだよね、私達、家族だもんね」

母はそのまま泣いて

父は後ろを向いた

きっと2人とも怖いよね

娘がいなくなるなんて

失うなんて

経験したことがないぐらい絶望だよね

私は自分の子供がいないからその気持ちに寄り添うことはできない

でも家族だもん、分からなくたって一緒にいるだけでいい

特別のことなんて何もいらないのだから

外は風によって雲の動きは早くて
太陽が顔を出した

そしてその陽は私達3人家族を優しく照らした

もう春は近い

そんなことを改めて感じさせた日の暖かさだった