あの日はあのまま駅まで歩いて別れを告げた

そして今日、私は制服に袖を通した
入学式の日に通した時とは訳が違う

私にとって最後の制服姿
伸ばしたことがない短い髪の毛を整えて、軽くメイクをする

「よし、完璧だね」

私はマフラーを巻いて外に出た

「おはよ」

「おーやっと来た」

そこには私と同じ制服とマフラーを巻いた紬と日向がいる

「おまたせ、ごめんね待たせて」

2人とも最後の登校だという事を知っていて迎えに来てくれたのだ

「気にすんな、1人で歩いてぶっ倒れられてる方が困るっての」

日向は笑ってそう言った

「ちょーっと日向?そんな不謹慎なこと言わないでよ。ね?月」

私に腕を絡めてそう膨れる紬は可愛い

そんな2人のやりとりに私は笑っていた

くだらない内容の話をしながら学校まで行く

くだらなくても私にとっては楽しくてこのまま時が止まればと願ったほどだった

学校に着くと、私は1人席で前に紬と日向が座る

くじ引きで決まるような席にこんな運が良いわけがない

「こんな席、よく引き当てたね」

私は驚きが隠せずにそう言ったら前にいる2人とも振り返って

「んーまあね」と紬

「俺、運強いからさ」と日向

2人は似たような笑顔をしていた

周りを見渡せば、ヒソヒソと話すクラスメイト達

そして私は分かってしまう

きっと2人が直談判や色んな話をしてここまで用意してくれたのだと。

「ありがとう」

私はそう静かに伝えると2人は振り向かずにピースを返してくれた

私にとって最後の日の授業でもみんなにとっては普通の日

だから授業が特別になんてなる訳がなくて

最後の授業はつまらない授業が詰まっていた

「あーだるかったね」

「俺、気づいたら寝てたわ」

2人は気だるげにお弁当を開けながらため息をついている

「確かに眠くなったね」

私は苦笑して返した

例え普通ならつまらない授業さえ、私には特別で

こんな会話をしているのが私にとって何よりも楽しかった

お互いのお弁当のおかずを取り合いしている目の前の2人

そんな姿にクスクス笑う私

病院食は質素で美味しくはない
おまけに体調が悪ければ食べるどころかもどすことが当たり前だった日常

私のお弁当箱につまっているご飯たちは母が好物ばかりをつめてくれてサイズはあの頃よりも小さい

その事実が私の身体の時間が進んでいることが分かる

でも今はそれを頬張って2人を見て笑う

こんな美味しいご飯なんて久しぶり

「ありがとう」

私がそう言うと2人は動きをピタリと止めて

「何言ってんの」

「あったりまえだろ」

口々に返事をした

午後からもまたお世辞にでも面白い授業とは言えない時間が続く

そして夢のような1日が終わりがやってくる

「帰ろうか」

「家まで送ってくよ」

2人はそう言って私を待ってくれる

「あ、ちょっと待って」

私はその2人の背中に追いかける

きっともうここに来ることはない
最後に夏祭りのメンバーがこちらを見てるのが見えた

私は少し足を止めて

「バイバイ」

そう教室と共にさようならを告げた

「○○、じゃあね」

そう聞こえた気がした

私は振り返って笑顔を向けて手を振って

また2人の場所に戻った

______「じゃあ、また病院で」

日が落ちてきていて

その夕日が日向と紬を照らす

「今日はありがとう」

私は2人に抱きついた

「待ってるから」

強く抱きしめた

最期まで私は君たちと笑いあっていたい

傷つけるのは分かってる

けど少しでも笑顔の私が君たちに残ってほしい

そんなことを願いながらそう一言、言った