私はずっと学校に行けなかったわけではない

体調が安定すれば学校に通うし、勉強だって病室や院内学級で取り組んでいた

少し体調が安定した中学生の私のある日

もちろん私は学校に行かされる

中学3年生の教室はもう友達は決まっていてポツンとただ孤独に私は席に座る

そんな私を憐れむ目も向けつつも自分の立場が崩れることは誰一人しない

それどころか少し下に見下したような目をしてヒソヒソと私の話をする

それぐらい中学生は大人だと勘違いした子どもの塊

受験が迫っているため両親は勉強する場に休むという文字はなくて

思い描いた学校生活とはかけ離れていた

こんな日々が楽しいわけもなくて

両親に心配かけないように、あの頃も仮面をつけたような笑顔で

「大丈夫だよ」って

言っていた

私は帰り道、誰もいない公園のブランコに座った

公園はいつだって子どもや人で溢れかえるはずなのに

この公園はいない

広く感じて嫌でも私に孤独だという事実を突きつける

何か込み上げてくる

我慢できなくてこぼれた言葉

「生きている意味って何かな」

病室と一人ぼっちの学校の行き来

何のために治療して

何のために勉強をして

何のために生きているのだろう

私の未来は約束すらされていない

誰一人されているわけじゃない

でも私は特にされていない

高校、大学って学生して、仕事して、それなりに恋愛して、結婚して、老いる

大抵の人が通る道

そのイベント達は普通の人の手元にはきちんとあって何一つ欠けることはない

欠けてもきっと代わりに充実という言葉が加わる

でも私の手元には今にも欠けそうで消えていきそう

普通に生きられない私にとって未来なんてないに等しい

そんな私に生きる意味は何

辛い思いをするぐらいならもう手放してもいい

近い将来、無くなる命

少し早くてもいいじゃない

きっとこの事を聞いた人は両親が悲しむでしょって言うだろう

そんなこと知ってる

でも長く一緒にいればいるほど思い出は増えて、比例して辛さは募っていく

なら増えないうちに消えた方がいい

そんなことを考えていた

「ねぇ、君」

一人だった公園に同じ歳ぐらいの女の子が目の前にやってくる

「私…?」

私は恐る恐る聞いた

「そうそこの君。名前は?」

女の子は笑顔を絶やさない

「○○ ○○です」

私は聞かれるがまま

「そう○○ね!私は紺月 紬。紬って呼んでよ」

明るい紬に私はついていくのが必死だった

「○○はずっと一人ぼっちなの?ずっと学校居なかったよね」

紬は私の目の前のブランコの柵に少し体重を預けた

「え…あ…私、病気なんで行けないの」

紬のテンポに負けて、私は素直に応えていた

「え、そんな大変な理由抱えてるのにみんな無視するの?」

ダメなヤツらだねーって紬は少しふくれながら言う

「でもいきなり来たししょうがない…じゃないかな?」

私は少し困ったように笑った

紬はズカズカと私の前に歩いて両手で私の頬を挟んだ

「月、私が友達になってあげる」

紬は思いっきり笑った

「え?友達…?!」

「そ、私達、今日から友達」

紬はよろしくねって笑いながら隣のブランコに座った

さっきまで生きる意味とかなんとか考えていた私が馬鹿らしく感じてきた

「実はさ聞こえたんだ。生きている意味って何か…って」

紬はブランコを漕ぎ出した

「きっと私には想像できないぐらい色んな思いをしたから、私が生きるって言うのと月が生きるって言う重さは違う」

紬の明るい言葉は私の胸に突き刺さっていく

「だから考えは違うだろうけど…月は生きることに真面目すぎるよ。重たく考えて暗い未来しか見えないの」

私は目を見開いた

「少しでもいいことを考えて、明日もこうだったらなあ!って思うだけで十分生きる意味になってるし、生きているってそういう事じゃないかな」

紬はブランコを少しずつ止めていく

「生きるって大変だけど、悪いことばかりじゃないよ」

紬は私をみてニッコリ笑った

私のつっかえていた何かが消えた気がした

「紬、ありがとう。少し前向きになってみる」

なんだか友達になったばかりの人と話すことじゃないと思う

でも紬は私の心をこじ開けてやってきた

私の友達だ

私は笑った

「今日からよろしく、友達」

私達は握手を交わした

「ん、まかせて!ずっとひっついてやる」

そう紬も笑った