次の日、外をゆっくりと歩く

無理をすればするほどきっと病室へ近くなる

だからゆっくり慣らすことが大切なんだろう

出来るだけ普通でいたい

そのへんの風景にいてもカラスのような異物にならないように

この空間に

この世界に

私は溶け込みたいんだ

公園までの道を電車を乗り継ぎ歩いていく

冷たい風を肌で感じたのは

葉が落ち殺風景な木々たちを間近で見たのは

元気で明日を約束されているような人々の声を聞くのは

風で運ばれた冬の香りを吸い込むのは

全部全部いつぶりだろう

これからも何度も外の空間にいたいという叶わない願いが胸に広がる

外の世界は自由にそこに何かが存在して当たり前で

異物(カラス)だってきっと普通に見えるように出来ている

そんなことを考えながら私は公園に着いた
なのに子どもの声が聞こえない静かな場所だ

私はブランコに座って、紬を待つ

1日だって待つつもり

それぐらい本気だと伝われば無理をしたっていいんだ

それぐらい一緒に居たい

それぐらい紬は大切な存在なんだ

私は知っていたはずなのに手放した

空を仰げば、太陽は風に流される雲に閉ざされて光は下に届かない

今日は風が強いから、雲の流れは早い気がする

________「子どもの声がしない公園って寂しく見えるね」

紬は軽く会釈をして手を振った

どれぐらいここに居たのか分からない

数分?数十分?数時間?

時間も気にならないぐらいあっという間だった気がした

「そうだね。公園が広く見えるよ」

私はそう静かに返した

紬はそのまま隣のブランコに乗る

「私、昔ね、ブランコが好きだったんだ」

紬の明るい声が公園に響いた

「ブランコに乗るとあんのだだっ広い空に近づいて飛べるんじゃないかってね」

紬はクスクス笑った

「今考えたらそんな近くもないのに…あの頃は近く見えたの」

紬は空を見上げて、ブランコを漕ぎ出した

「私は日向や○○が空みたく、私たちが見上げるような何かで羨ましかったよ」

紬のブランコは空に近づく

「誰かを引きつけて、笑えばみんな一緒に笑うんだ」

紬は少しをこちらを見た

「太陽やお月さんみたいに空を見上げるといつもそこに居て…人を魅了する」

紬はニコッと笑った

「やっぱり2人は似た者同士だね」

紬は片手を上に伸ばし
空を…太陽を掴もうとする動作を見せる

「ほら、届かないでしょ」

紬はブランコを止めてこちらをみて悲しそうに笑った

私は何を言えば分からない
ただ相槌をうったり、真っ直ぐ見つめることしか出来ない

「日向も○○も一緒なの」

紬の悲しそうなどこか寂しそうな笑顔のまま話し続ける

「届きそうになると遠くにいっちゃう。また追いかけても遠くへ…」

ポロッと涙が紬から出てくる

「日向と付き合えて幸せだよ。でもね日向の心の中には○○がいて…ココ最近も○○のことを支えてやりたいって言ったきり」

紬は目を伏せた

「授業中は寝てるし。起きてる時は部活してる時ぐらい…放課後はまともにデートさえしてくれない。理由を聞いても○○からじゃないと意味が無いって」

紬の涙が増えていく

私は気づく
日向はずっと嫌な役をしてくれていたんだ

私が正直に紬と向き合えるように
私の言葉で紬に伝えられるように

なのに紬のことを聞いて…あんな無神経なこと言っちゃいけないよね

「ごめん。○○に言っても意味が無いのに…嫉妬して嫌な自分を押し付けてるだけだよね」

紬は涙をゴシゴシ拭き取った

ここまで日向はしてくれたんだ
私が応えなくてどうする

「紬、聞いて。日向は何も悪くないの」

「アハハッ○○ともしかして出来ちゃってんの?」

紬のこんな姿を見たことがない

こんな言葉を聞いたことがない

少し悔しそうに強がっている

ごめんね、また傷つけ…違うの、言うんだ私

「私ね…もう長くないんだ」

冷たい風が吹いた

「どういう…こと?」

紬は目を見開いた

「私の命は春までもたないの」

私は少し笑みを含んで紬に言った

また紬は左目からポロッと大きな涙を流した

「だから…何も」

「ほら、○○がまた遠くにいっちゃう。もう…届きそうにない空にいっちゃうじゃん」

紬は私の言葉を遮って強がって笑って言う

そして涙を流してくれる

「ごめん、ごめんね。紬」

そんな紬の頭を優しく撫でた

それぐらいしか私には出来ないから