「なあ、俺が傷ついているように見えるか?」

日向は一言呟いた

「近くにいる俺が月のことワガママって言ったか?」

私は顔を上げた

すると日向はずっと真っ直ぐ私を見つめてくれる

「はぁ…やっと月の弱いとこ知れた」

ため息を軽くつきながら、日向はこちらに椅子を寄せて私の頬に触れた

(つき)だって雨の日にあたることだってあるよな」

日向は私の目の下をすくい上げた

「涙、安心して流して」

「私…泣いてるの?」

「気づいてなかったのか?…月、泣いてるよ。ちゃんと涙、出てる」

私の頬に暖かいものが流れていく

ずっと私は泣いていたの?

それを隠して、どうでもいいと無視していた

「周りを傷つけるとか言って1番傷ついてるのは月じゃん」

ゆっくり日向は頭を撫でてくれた

「1人なろうとすればするほど、月のことが気になんの。それは紬も一緒。…お互いが傷ついてると思わない?」

日向はフッと笑った

「なら一緒に傷ついてるほうが大分まっしだと俺は思うけどな」

「…私が居てもいい…の?」

考えるより先に言葉にしていた

ずっと言えなかった本音

ずっと隠して見なかったことにした思い

自分で壊してしまったものをまた直そうとしてくれている手を握ってもいいの

私はギュッと目を閉じた

怖かった

日向の顔を見るのが

怖かった

日向の言葉を聞くのが

怖かった

日向の拒否されるのが

私はマイナスな未来ばかりが見えて胸の音が早くなった

「目、開けて」

日向の優しい声に目の力を緩ませた

「っ…」

日向はニカッとあの日紬に見せた笑顔をしてくれた

「え、俺そんな悪そうな顔してた?」

私の頬に伝うものをまた優しく救ってくれる

「違う…違うよ…」

私は笑った

日向に負けないぐらい。

「また一緒にいたい」

初めて本音が言えた気がする

「またきっと傷つけちゃうけど一緒に最期までいてほしい」

どうでもいいと思っていた

他人や自分さえ。

でも人に頼りたくなった

「わかった、一緒に傷ついてやる」

日向はそう言って笑ってくれた

君がそう言ってくれるから

私はめいいっぱい、傷つこうと思う

きっと失うのが怖くて

きっと先に逝くのが嫌になって

きっと病魔という風が嫌いになって

きっと散ってしまうことに抵抗したくなる

でもいいの

最期までそばにいてくれるから

私のこの思いも半分、背負ってくれる

「日向、変わったよね」

日向にあれから慰めてもらって時間が経った

私はふとそう思った

「え?そう?」

「うん、なんか紬に似てきたよ」

「ずっと俺は俺なんだけど」

「真っ直ぐに人に体当たりして土足で踏み込むとこ影響されてんじゃない?」

日向がそうかもしれないなぁと悩む素振りを見せる

「いいじゃん、私、紬のそういうとこ好きだからさ」

私はサラッと言うと

日向は目をパチクリさせて「紬のこと好きなんじゃん、会ってやれよ」と言う

「そうだね、私が会いに行くよ」

日向は「入院してるから、無理だろ」とからかったように笑う

「いや会うから。紬が私に向き合ってくれたように、次は私が」

そう真剣に言えば日向はもう何も言わなかった