私の鼓動はいつもより早く波打つ

「日向の初恋が私ね…」

そう言葉にしても実感が湧かない

「まあ、少し甘酸っぱくて淡い気持ちだよ」

日向はそう未だに照れくさそうに言う

「ハハっ。信じられないけど…嬉しい」

私の頬は真っ赤だと思う

私の想いが少しが叶ったような気持ちだった

「はい、次は月のばん。俺になんか隠してるでしょ?」

日向はイタズラに笑う

「私?そうだね…んー…」

私は悩む素振りを見せた

言うことは1つ。もう決まってる

「私はね、日向の主人公になりたかったよ」

そう言えば、顔が熱くなるのを感じた

「え…?」

日向は少し戸惑った

「私は…日向が好き“だった”」

過去形なら言える気がした

日向も昔の話…なら私もそうすればおあいこでしょ?

それにもうこんな幸せ、十分すぎるから

「俺ら、すれ違ってんじゃん」

日向は嬉しそうに笑う
それを雨が止んだ空に浮かんだ日が照らす

眩しい

あの日の日向と重なる
あの時もこんな笑顔だった

「日向がそのまま一途に初恋、続けていればよかったのに」

私はそうからかった

「えーそんなこと言う?」

日向はおちゃらけたようにそう言った

「嘘だよ。私を選ばなくて正解だったよ」

日向は返す言葉が見つからないようだった

「いなくなっちゃう。選んだとして日向をたくさん悲しませて幸せにはできなかったよ」

日向は黙り込んだまま

「…あーあ!主人公に1度でもいいからなりたかったなあ」

私は沈黙を恐れてそうおどけてみせた

「…って何か言ってよ」

日向はずっと口を閉ざしている

「…月はずっと前から主人公だよ」

真剣な顔して日向はそう言う

「え?…私なんて太陽の光を借りて勝手に主人公気取りした月でしかないんだよ」

思ってもみない言葉に私の言葉は終わるにつれ小さくなっていく

「月は…夜空にあるたった1つの目印。暗い夜空に光るんだ、それが借りた光だろうと…たった一つ、夜に人を照らすのが月だ」

日向はそう真面目にゆっくり伝えてくる

「そう考えれば月だって主人公なんじゃない?それに(るな)はたった1人しかいない。月と同じだよ」

こんな感情…私は知らない

頑張ったねって褒められる嬉しさでもない

頭を撫でられた時のような暖かさでもない

胸が締め付けられる

それは苦しさからくるものでも
病気からくるものでもない

甘くて…でもどこかほろ苦い

「あ、虹」

私は窓の外に広がる虹に話をかえた

「ほんとじゃん!綺麗だなあ」

日向はくるっと背を向けて窓をみてそう呟いた
少年のようなワクワクしてるようなそんな顔

一番星を見つけたあの日の日向と重なる

ずっと日向はあの頃から変わってなかったんだね

私だけが勝手に時間が経ってたのかな

あの頃に戻りたいなんて言ったら笑うかな