やはり冬休みを明けてから学校へ行くなんて夢のようだった

毎日治療と検査に耐えるのが精一杯
私の体力は日に日に削られていく

そんな中、今日がテストだと紬と日向のメッセージから知った

私が休み続けているため、心配して紬と日向は事あるごとにメッセージを送り続けてくれていた

しかし私はそれを見て見ぬふり
既読という文字だけが相手に伝わる

私の事実は知らないほうがいい

そう思ったのだ

人を失うことなんてしなくていい
大きな傷をなんて背負わなくていい

私が死んだって事実を後から知って泣いてくれるのならそれでいいの

笑顔の記憶のまま、いなくなる方がきっと。

時計を見ると時計の針は9時をさす

テストはじまったかな

初めてテストを受けなかった
日向と勉強する日々がもう色褪せるように懐かしい

「もう1回、君と勉強したかったなんて言ったら笑うかな」

床頭台に乗せられた1冊のノート

母に教科書とセットで頼んでもってきてもらった

あの時の癖のように私はそのノートに今回の範囲だと思う教科書を広げて書き進める

私のことを思い出すようにって意地悪のつもりで作ったノート

でも今は、そんな楽しかった思い出を巡らせながら書き続ける

最初は私を苦しめるようなノートになっていた

でも今は私が学校に行って普通の女子高生として紛れ込むことができていた日々を思い出すトリガーになっていた

気づけば頬を緩ませていたと思う

初めてテスト期間を1人で過ごして感じる

私は楽しかったの

興味のない人間にはどうでもいいとか思ってたけど

楽しかった

あぁ幸せだったな…と笑うことが出来た

そんなノートになっていた

私のしたかったことがつまってる
夢とさえ思えてしまうほど

そんな日々を自分で壊したんだよね
善と悪の区別がつかなくなったあの日

大切なものを壊した

理想の主人公(完璧)な日向が欲しくて

勝手に恋をした

初めて君と過ごすことがなかったテスト
私の学校行事は突如幕を閉じる

どうしてこんなにも胸が苦しいのか
どうしてこんなにも胸が締めつけられるのか
どうしてこんなにも胸が痛むのか

わからない

私は日向と紬の前から前から去ったの
もう会いたいなんて思うほうがおかしいの

いらないこんな気持ち

あぁ水槽に入ってたのは私じゃないか

金魚鉢の中しか知らない

私は“川”にも“海”にもいない

自然にはいないの

ずっと水槽の中で見えてる世界はあまりにも小さくて代わり映えもしない

自身の存在さえどうでもいいって放り出して
自分の理想(水槽)の中で心地よくずっと泳いでた

いつかなれると信じて

恋愛の主人公(普通の人)に。

そんな私が差し込む光に憧れて、引き込もうとした

私は筆をとめて、外を見た

「ばかだね、私」

私の独り言は部屋にこだまする

虚しさが広がる空間で私は窓を見つめた

優しい陽の光は平等に人を照らす

それは私も同じ

目の前にあるこの木にも同じ

そんな日を浴びて桜の花が咲く頃、私はこの世にいない

私はこの木よりも日を浴びすぎた

だから一足先に散るの

「もう十分なんだよ、日向」

私の独り言には後悔はない

携帯に日向からのメッセージがくる
もう、いいの

そのまま私はそのメッセージに既読という名の返信もせず消した