祖母はきっとトイレから戻った私の真っ青な顔に驚いたのかもしれない

私だって洗面台で口を洗っている時に鏡に映った真っ青な顔に声がでたのだから

両親に慌てて連絡し、私は半ば強制的に布団の中に戻された

私はあれだけ眠ったというのに眠気に勝てず、眠り着く

ガヤガヤした音に私は目を開けると、目の前に両親はいた

「ごめ…」

私の声を待たずに父親は頬を叩いた

「あれほど言ったのに分からないのか」

そう静かに怒鳴りつける

「なんで言わないの?!」

母親のヒステリックな声

私は何も言えない

祖母は黙ってこちらを見ている

私は染み付いた笑顔でヘラっと笑って「ちゃんと言わなくてごめんなさい。お父さんとお母さんに心配かけたくなくて…」とそう呟いた

「ずっと心配してるんだ。今更なにを言ってるんだ」

「そうよ、悪化するほうが心臓に悪いわ」

収まらない…か

目の前が少しぐらつく

頭が重い

仮面を選んでる場合じゃない

「明日、病院行くから…寝かして…」

そう言い残して意識を手放した

いつからだっけ

父と母がこうなったのは

いつだったんだろう

笑った顔、見たのは

思い出せないや

_______次の日、強制的に実家に戻される

帰り際、祖母は優しく「大丈夫だよ」とそう一言、手を握りしめてくれた

そして病院に行く

風邪ですって言われると思っていた

なんなら少し悪くてもインフルエンザ

そう言われると思っていた

そうがよかったの

そして父と母に笑いかけて「大丈夫だったでしょ?心配しすぎだよ」というセリフを言って

また祖母の家に戻る

そんな台本を用意していた

でも現実はそう甘くなくて、私が1番聞きたくなかった言葉を。

台本には用意出来なかった

医者はアドリブを言うのだ

「再発しています」

そんな医者の声は酷く冷たく聞こえた

再発…?

何を言っているの?

冗談でも笑えないよ

私を見た父と母の顔も酷く冷たく見えた

現実を受け止める前に話は進んでいく

アドリブを並べる医者の言葉なんて覚えれるわけなくて

何を言っているのか分かる前に私は気づけば、病室のベットの上

点滴のおかげか少し身体が楽になっていた

父と母は病室に入ってこない

きっと病室の前にいる

少し前に見た父と母の顔は絶望してるように見えたのだ

覚えていないとは言ったけどもこの言葉だけは私も同じように絶望していたと思う

_______「春を迎えるのは難しいでしょう」