息を切らしてたどり着いた教室

そこには会いたくない人がいる

「久しぶり」

日の光に照らされた日向だ

「…久しぶり」

そう消えてなくなりそうな声で言葉を返した

真っ直ぐに私を見つめる

どうしてあんなことしたんだ
どうして紬を傷つけたんだ
どうして今も尚、傷つけるんだ

どうしてどうしてどうして…

そんな言葉達が日向の瞳から伝わってくる

「俺を避け…」

そう日向が口を開いた

私は目をギュッと閉じ、耳を塞いだ

まるで全てを拒絶するかのように

そのまましゃがみ込んだ

「ごめん」

私はその言葉しか言えない

日向が駆け寄ってくる気配を感じる

このまま私を貶してくれれば、いっそ楽なのかもしれない

でもきっと日向は_______

「俺を見ろ」


耳を塞いだ手をゆっくり取って、優しく声をかけてくる

私にはもったいない

見たくないの。

日向の冷たい顔
日向の傷ついた顔
日向の悲しそうな顔

私の中の君は笑っていてほしいから。

「いいから、俺を見ろって、月」

私はハッとして目を開けた

そこには私と同じ目線でしゃがみ込んだ日向がいて冬にしては心地いい陽の光か差し込んで、日向の柔らかい髪の毛を照らす

そして見たことがないぐらい優しい顔をしていた

「やっと見てくれた」

そう微笑んだ

あの時見たような素の日向の笑顔みたいだった

「私の名前、もう1回呼んで」

私はそんな日向に目を奪われたままそう言う

「んだよ、いきなり」

そう言って照れくさそうに笑う日向

こんなにもコロコロと表情を変えていただろうか

「いいから。呼んでよ」

「月」

「もう1回」

「月」

「もう1回」

「月…なんだよこれ」

日向はつまらなさそうに口を尖らした

「私の名前、日向と真逆だよね」

「ん?あぁ、確かに。名字も川と海だもんな」

はにかみながら日向は笑う

「川が無いと海はできない。日の光が無ければ月は輝くことができない」

「なんだよ、俺らずっと前から“似た者同士”だったんだな」

その言葉に返す言葉は見つからない

日向は窓の方に身体を向け、外をぼんやりと見ている

似た者同士だったから
日向は私より紬を選んだ

最初から決まっていたんじゃん

私の“配役”

そんな運命的なものはいらない

真逆の人間でいたかった

そうすれば、私は

「君の主人公になれたかもしれないね」

私のこの声は窓から入ってくる冷たい風によってかき消された

その冷たさが私を冷静にさせる

「なあ、この間のことだけどさ…」

そう日向が口にする頃には私は教室を出た

今度は私が消える番

似た者同士なら分かるよね

だって______


「日向~今日もダメだった」

君の主人公()がいるもの

私はいらないよね

あの時も日向はこんな気持ちだったのだろうか