「私はいつも○○が羨ましかった」

紬はゆっくり歩きながらこちらを歩いてくる

「日向は口をひらけば○○の話を楽しそうにするの。そしてどこか心配そうに○○を見つめる」

そしてゆっくり涙をはらりと流してゆく

「好きだと言われた時はもちろん嬉しかったよ。こんな人が私を好きになるなんて勿体無いぐらい」

そして日向の前に立つ

「でも、私いつからか日向と釣り合わないって思ってても、欲張りになっちゃった…日向と○○が仲がいいのは知ってたし私の大好きな人達が仲良くしてくれるのは嬉しかったんだよ。でもね、同時にね…ここが黒く染るようにどんどん許せなくなっちゃって…」

紬は指で胸を2回、トントンとさした
日向のほうへ目を向ければ、悲しい顔を通り越して酷く傷ついた顔をしている

「こんな自分、嫌で嫌でたまらなくて我慢しようとすればするほど言葉は裏腹に…勝手に出て、いつの間にか日向を困らせてた」

私は今、何を見せられているのだろうか
でも私は驚愕していた

紬はずっと1人で戦っていた
想ってくれているとは思ってても日向から確証を得られるものはなくて

ずっとずっと我慢をしていた

私は一体何をしていたのだろうか

これじゃあ、まるでまるでまるで

_______私は主人公を邪魔する悪女ではないか

「ごめんね、日向…こんな私にずっと付き合っててくれなくて大丈夫だから。」と紬がまた1粒綺麗な涙を流した

すると日向はガバッと抱きしめていた

「バッカじゃん。俺、紬しか好きになったことねぇから分かんねぇんだよ…何を話したら喜ぶのか、なんの話題なら紬と上手く話せるのか…全部考えて考えて…」

私はいつから主人公じゃなかったの…?
きっと世間から見れば紬がこの話の主人公

その事実が浮かび上がっていく

「馬鹿なのは俺だよな。紬に我慢ばっかりさせて…なんも気づかねぇ、なにが人の事分かるだよ…大事な人のこと一切知らなかった」

日向は身体を剥がし、涙を1粒流して笑った

負けた…もう紬には叶わない

だってこれは日向の

本当の笑顔(演じたことのない表情)

そして紬もつられて笑う

その顔はいつの日か見た本当に綺麗で花なんか比べ物にならないあの笑顔

日向は私にも演じていたのかもしれない

紬のことは何も分かってないのにこうやって笑う

私には見透かして何もかも分かったように振舞って
私には余裕そうな笑みをみせて

私には

私には

私には

______表情(かお)を見せなかった

最初からずっと私の役目は決まっていた

「はぁ何見せつけてくれちゃってんの?私は紬がうざったくてたまんなかったんだよねー」

_____私があの時、選んだ道は上手くいくことなんてなかった

「っていうか日向が欲しかっただけなのに…本気で邪魔すんなよ」

______私が上手くいったとしても、きっと君はそんな笑顔は見せない

「日向も日向よ…気があるフリして何様のつもり?」

_______それじゃあ、意味が無いの。私が描いた理想の話にはならない

「どれだけの女の子を泣かせば気が済むの?」

______だから私の選んだ仮面はこれが正解なんだ

「嫉妬させ続けたら、喧嘩別れするんじゃないかと思ったけど…そうなりかけてた時は心底、笑みがこぼれたわよ」

______どの恋愛物語でも、みんな最後は笑顔でなくちゃ意味が無い

「でもなによ、結局は私を除け者にするのね」

______悪女のフリをシツヅケル

「ほんとつまんない人達」

______そうすればまた笑える。素敵な終わりに迎える

「でも結果的にあんた達の傷ついた顔みれて、満足よ」

だってそうでしょ?
(日向と紬)の笑顔はこんなにも私を幸せにするのだから

私は右目から涙が1粒おちて笑った
心から笑えたのではないだろうか

いつぶりだろうかそんな笑みがうまれたの

私は荷物をまとめながら話し笑ってみせた
そのままの勢いで教室をあとにした

後ろで私の呼ぶ声がした気がするけど足を止めちゃいけない

このまま土砂降りの雨の空の元、帰らせてほしい

今日だけは私のところだけ、雨模様じゃないもの

今はもう傘なんていらない

ただ私という存在が見えなくなるのであればそれでいい

予報ハズレだとどこかの人間はキレてるだろう
私はその予報ハズレに感謝した

今日もきっとまた月は紺色の雲に覆われて光は見れない

それもそれでいいじゃないかと思えた