「よお、待ったか?」

誰も居ない教室に響くのは日向の声

廊下の窓からの夕日で日向が照らされる

目が向けるのでさえ目がくらみそうなぐらい、あの時の白昼夢より眩しかった

「日向、ワガママ聞いてもらってありがとう」

私は少し目を伏せながら伝えると

「んーいや、勉強教える立場からしたら用意してるのにいきなり断る俺が悪い」

と少しハニカミながら日向はスタスタ歩いてくる

「紬は?」

この言葉が出たのは無意識だった
日向から紬の言葉を聞きたくはない

でも紬のことで日向に悲しい顔をさせるのは嫌だった

きっとただそれだけ

「あーまあ…大丈夫」

日向のお得意のスマイル
私は所詮、ハッキリと誰かにいえる立場の人間じゃない

日向にとって…私はなんなの?

「なら早いとこはじめようか」

私は余裕なフリをして次のことをテキパキはじめる

そう最後のワガママは

______テスト勉強だった

これで縁を切りたいわけでも、私が日向を諦めたわけじゃない

ただただ日向の中に私という存在の爪痕を残したい

私は右手の人差し指の傷跡を見つめた
これを見る度に日向を思い出して胸がはち切れそうだ

この作り上げたノートが日向にとって
私の存在を思い出すトリガーになればいい

これが私のワガママの理由

ノートを開いて、丁寧にまとめあげた勉強内容を正面にいる日向に話す

しかし日向はどこか上の空
消えた理由を尋ねた時のように日向は上の空だった

「日向?どうしたの」

さすがに気になり、声をかけた

「なんで俺の目、見ねぇの?」

そんな日向の素朴な疑問
私は答えるのに時間がかかり、無言の空気が続く

「月の表情が最近、増えてきたから嬉しかったんだけどさ」

と日向は続けた

もう私の仮面は日向にさえ気づいてもらえない

月はいつだって太陽の輝きを借りて光っている
私はそうやって日向に光を当てられ、見透かされていた

_____もう日向(太陽の輝き)が届かないぐらい、私の(仮面)は厚くなったのだろうか

「ずっと考えても…答えがでてこねぇ。なんで月はそんな傷ついた表情(かお)してんだ?」

日向が上の空の理由

私のことを考えていたから

じゃああの時も私が傷つかないように、気にしないように消えた理由を考えていたから…

いつだって日向は優しい
目の前にいる人の事を考えてくれてるのに

どうして私はそんな人に悲しい顔ばかりさせてしまうのだろう

今だってほら________

「紬!?」

窓の外は予報にない厚い雲に覆われ、雨が1粒1粒と落ちてきて、窓を濡らす

そして雨音が聞こえはじめた

「どうして日向は…いつも○○を選ぶの?」

どこかでピンと張った糸が切れた音がした

そしてその糸をゆっくり紬が拾って結び合わせていくように私の知らない紬と日向のことを語ってゆく