____チャイムと同時に席替えだぞーと担任の声が聞こえた

新しい席は日向とは離れた
紬は逆に日向と前後の席になっていた

その2人が醸し出す空気は周りの人を、微笑ましく応援されるような可愛いものだった

_____「やってられない」
そんな言葉がでた時は席替えから2週間経過しようとしてた

猛暑が残り、じんわりと汗をかく暑さのこの季節は余計にイライラさせた

そしてそのイライラが私の体調を害した
まだ夏風邪といってもおかしくないこの残暑

「そろそろ温度下がりなさいよね」

1人ベットの上で寝込んでいる私は呟く

___小さい頃から私の身体は“弱い”
風邪もすぐこじらせてしまう

それはいろいろと訳ありだが、そんなことも考えたくないぐらい、体温も上昇し、辛い

両親は学校を休ませた
共働きであるため夕方までは1人だ
共働きといっても母はパートであるため、帰ってくるのは父より早い

寝付けない私は寝返りを打つと目にはいるのは机の上のカレンダー

ありきたりな学校行事も入学してきてから経験したけれど、私にとって大切な学校行事はテスト

こんなこと言えば周りから笑われるかもしれない。でも心から笑えて楽しい時間はテストだった

風邪により人肌恋しいのか、はたまたテスト期間のことを思い出したからなのか、私の指は勝手に日向へ連絡を入れていた

『日向、テスト勉強のためのプリント持ってきて』

『いいけど風邪治すことに専念しろよ』

すぐに返信がかえってくる
ニヤけた顔を元に戻すのには、日向が来るまで無理だった

母が帰宅が少し遅くなると連絡が来た夕方
待ちわびた夕方

チャイムが鳴り響く

体力が低下した私はマスクをつけ、フラフラとしながら、出迎えに行く

「わざわざごめん…」

扉を開けると夕日に照らされ心配そうな顔をした日向がいた

日向と勉強したあの日のように目が奪われた

「プリント…あとゼリーとか食えるか?」

丁寧にクリアファイルにいれたプリントと、コンビニで買ったであろう袋の中にゼリーと飲み物が入っていた

「そんなのいいのに…ありがとう」

「早く治せよ」
日向は私の頭をぽんぽんと撫でた

そのまま帰ろうとする日向の腕を持って止めた

だって

だって

だってだって

「今日の日向、元気ないけど、どうして?」

気づいてしまったのだ

私に見せる日向はコロコロと表情を変える
それは演じてる日向であっても他者との壁を作るために変える

日向の肩はビクッとした

「無理に話さな…」

「紬と喧嘩した」

私の言葉を遮るように日向は振り向かず言う

私は返す言葉が思いつかなかった
無言の時間がどれだけ続いただろう

はたから見れば数秒であったかもしれないが私には何十分も経ったように長く感じた

立ち尽くす私に日向はゆっくり振り向いた

「紬のこと、傷つけたくなかったのになあ」

無理してニッコリ笑う日向を初めて見た

「日向…」

許せなかった、日向を傷つけた紬を
許せなかった、日向にこんな表情をさせる紬を
許せなかった、紬のことで傷つく日向を
許せなかった、紬のことを想っている日向を

許せなかった…こんな日向を見た事がない私が

家では18時を知らせるチャイムが鳴った
母がもうすぐ帰るであろう時間

それが私を現実に引き戻した

「日向。風邪、移るといけないから電話するから全部話して」

「でも」

「気にしないの。ほらはやく帰った帰った!」

渋る日向を私は強制させた

一旦別れを告げてベットに戻った
数分後、母の帰宅を知らせる玄関の扉を開く音と着信が鳴った