___夏休み明け
夏祭りのメンバーと共に登校をし始めたため、紬とは朝から顔を合わせなかった

つまらない話をしながら歩いていると見たくないものと聞きたくないものまで聞こえる

「日向、眠そうだけど昨日ちゃんと寝た?」

「紬の寝息聞いてから数分後には寝たけど…」

「え、じゃあいつ電話切ったの?」

「いや紬がいきなり切ったからその音で目覚めたんだけど…俺が寝みぃのは紬の寝相の悪さのせいじゃね?」

「私、そんなに寝相悪いと思うんだけどなあ」

そう紬が真剣な顔をして悩む姿を見せれば、日向は楽しそうに笑っている

あれから付き合ったんだと聞かなくても分かる幸せオーラ

反吐が出る

すると夏祭りメンバーは口々に紬の悪口を言い出す

「ほんと釣り合わないよね」

「どこがいいの?○○のほうが美人だしさ」

「友達踏み台にして、自分が幸せになるとか、性格わるっ」

少し私はその言葉達に気持ちが軽くなる気がしていい気味だった

教室につくと、日向への黄色い歓声は全くしない
いつもの恒例行事なのに…登校の時もなかった

席について何も知らないフリをした私は日向に話しかけた

「日向、おはよう。今日部活の朝練は?あといつもの女の子達はどうしたの」

「おー月、おは。朝練、ちょーっとばかし早く抜けて紬、迎えに行った」

しれっとでてくる惚気話
聞きたくないんだけど…とは言えない

「あ、女の子達の話な。俺、紬と付き合ったんだ」

知ってる。見れば分かる
しっかりと言われれば、それもまた辛かった

「それで朝練来てた子達に、紺月紬と付き合ったからもう付きまとうのはやめてくれ。あと紬に嫌がらせしたら俺キレるからね。ってにこやかに言っといた」

「日向…それ脅しよ?」

私はいつも通りを演じてる
大丈夫、いつも通り

「それぐらいしとかないとな…っていうか月、なんかあった?いつも通りにしようとしてるのバレバレ」

日向はいつもその瞳で私を見透かす
さっきまでヘラヘラしてたのに急に真剣な顔になってずるい

「いや、日向のその本性、紬にドン引きされないかなって心配してただけ」

「あーそれか…紬ってホワホワしてるから、一緒にいると自然に笑えるっていうか、性格悪い俺を和らげてくれるって言ったらいいの?分かんないけど…」

照れているのだろうか私から紬のほうに顔を向けた

「すげー好き」

私が今まで見たことないぐらいの優しい日向の横顔を陽が照らして、より一層私の心を苦しめた

「はいはい。惚気話はいいからさ。じゃあずっとニコニコしてなくてすむんだ」

私は日向のほうに顔を向けるのをやめ、授業準備をしていく

「まあ、そういうことだけど、俺はニコニコはするつもり」

でもこれからは紬に教えてもらうつもりだから、今までテストの時はありがとなという言葉を日向は軽く口にした

そんな言葉聞きたくなかった
耳を塞ぎたくてたまらなかった

でも私は日向と一緒にいるためにはどんなことだってする
もう黒く染まった私のことは誰も止められない

「紬といつからなの?私、しばらく会ってないのよ」

「夏祭りの日。俺から告った」

「いつから好きだったの?」

「んーわりと前からだけど」

ただ淡々と会話が成立していく
そこに私の興味がない

ただの邪魔な女友達(日向の彼女)の話を聞いているだけ

恋愛物語には必須な登場人物よね

仕方ないとは思っているが私の中でずっとひっかかってた。

私のことを君と呼び、紬は名字ではあったが名前を呼んでいた

あの時から少しひっかかっていたのだ

「月と中間テスト勉強してる時にはもう気になってた。いや委員会決める時から?」

日向は天井に視線を向け、思い出す素振りを見せる

「中間テスト勉強してたあの日、窓の外を見てたのって…」

私は思わず口にした

_____日向が窓の外を見て、その後に紬が入ってきた

「そっ。まあ気分転換にたまたま見ただけなんだけど…そしたら紬がさ、一生懸命走ってる姿見て何に頑張ってるんだろうって思ってた」

あの日、日向のこと綺麗だって思ったのは日向を変えられる紬を想っていたから…?

「なんで、あの時消えたの?」

想ってたなら話すきっかけにもなっただろうに

「ん?あれは月との時間だったから」

そう日向はサラッと言ったがどことなく上の空で嘘なんだと思えた

日向が私のことを見抜けるなら、私も日向のことを見抜ける

同種だもの

そもそも委員会決める時からということはわざと一緒になってるわけだし…あの時は一切面識なんてなかったはず

「あ、そう。なら、紬のこと、一目惚れなの?」

そう聞くしか理由は聞けない気がした

「俺、正直顔とかどうでもいいと思ってるから一目惚れなんてしない。言ったじゃん、俺と君は同種だって」

意地悪そうな顔をした日向がこちらを見て笑っている

「それが…どうしたってのよ…」

「同種に出会ったのは初めてだってことも言ったよね?」

日向はもったいぶる。というかこの状況を楽しんでいる

「だーかーら、それがどう…」

「気になったんだよね。俺と似たような人間の側でフワフワ笑う紬が」

日向は真剣な顔して、真っ直ぐと紬を見ながら私に被せるように言った

「知れば知るほど、バカ正直に毎日一生懸命生きてるんだなって。物事に一喜一憂しながら喜怒哀楽をコロコロと変えて、精一杯、他人のために全力な紬を羨ましいと思った」

そして日向は続けた

「のらりくらり生きてきた俺には何一つ持ってないものだったから余計に。だから同時に紬の一生懸命生きる理由も一喜一憂する時も喜怒哀楽を変える時も全力である時も…全部全部その相手が俺であって欲しいって思えた」

日向は徐々に優しい表情になってゆく

「そうすれば…いつか俺も変われるかなって」

日向はクシャッと笑った

“敵わない”そうポロッと出た本音
その声は紬のおはようの言葉でかき消された

しっかり人の事をみる日向だからこそ、出会って短期間でも関係なくでた言葉
人に興味がないからこそ、気になった人を知ろうとする日向だからこそ選んだ相手

今まで日向は紬みたいな人間なんて出会ってきただろうし言い寄られたはずだ

でも私が居たからこそ、紬は目立った
私が日向と似たような性格だったからこそ、紬は日向の目に止まった

自分じゃ輝けないくせに
なら輝けないのなら主人公失格よね

やっぱり紬はただの日向の彼女(邪魔な女友達)