夏休み本番、バイトばかりしていた私が唯一楽しみにしていた夏祭り。

____君、夏休み、祭り行く予定ある?
あの日の光景を繰り返していた

日向はできる予定だと言っていた
私はあれからその話題に触れられなかった

…誘う相手を知るのが怖かったのだ

スマホを開けばいつでもそのことは聞ける
私は勇気を出せず、友人達と約束してしまった

紬をなぜか誘えなかった
___○○って清川くんのこと、好き…なの?

この言葉を聞いてから紬と一緒にいる事が少なくなった。あの時の紬の表情はまるで…まるで…

____日向のことを好きっていっているようにみえた

そんな紬が可愛いと思ってしまった
そんな可愛さが羨ましいと思ってしまった

そう思えば思うほど、どこかが黒く染まっていくのだ

私は浴衣に身を包み、美容院でセットしてもらった髪型とメイク。
日向に会えたらいいなと淡い期待と共に家を出た

そんな淡い期待が私をより一層苦しめたのだ

暗くなってきて、そろそろ花火だという時刻になった。友人達はずっと日向の話題で持ち切りだった

私は適当に返事をしながら、話題を合わせていた

日向に会えたらと思っていたのに全然いない
結局出来なかったんだ。夏休み明けたらいじってやろう。

夏休み明けの日向と会うのが待ち遠しくなり自然と笑顔が零れた時だった

見覚えのある男の子の後ろ姿

見間違える訳ない
______その後ろ姿は日向だ

そう確信した私は友人達を無視して慣れない下駄でその後ろ姿を追った

「ひなっ…」

「紺月、お茶と水どっちがいい?」

「んー水!ありがとう」
手を伸ばした先には日向と紬が仲良さそうに笑ってた

私の心の中に立ち込めるのは黒いモヤ
頑張って抑えようとすればするほど、なにかが出そうだった

「○○!」
タイミング悪く紬は私に気づいた

そして同時に日向も振り返る
日向は夏の炎天下の中、部活をしているというのにそれを感じさせない肌白さを保っていて、夏休みが始まる前にさよならを交わしたままの姿と変わらなかった

「おー月。浴衣似合ってる、いいじゃん」

かけて欲しかった言葉が今は私を苦しめる凶器となる

その言葉、隣にいる紬にも言ったんでしょ?と紬の綺麗なのにどことなく紬の可愛い雰囲気を残した浴衣姿は私から見ても、けなす言葉が見つからない

「○○、いるなら連絡ちょうだいよ〜」と紬はそう言いながら私に駆け寄ろうとすると、日向が紬の腕をとった

「紺月、無理すんな。鼻緒のとこの足、赤くなってる。足痛いんだろ?」

日向は心配そうに紬を見つめていた

「これぐらい平気だから…」

紬がやんわり腕を振りほどこうとする

「だーめ、座れ。紺月はそうやってすぐ無理しようとする」

日向はゆっくり紬を座らせて下駄を脱がし絆創膏を貼ろうとしている

「ごめん、清川くん」

「いいって。ほっとけねぇだけだから甘えてくれて構わないから」

そんな2人の甘酸っぱい空気に、私は呆然と立ち尽くしていた

「悪いな月、ほったらかして。友達と来てんだろ?はぐれたのか?なら俺が…」

紬に絆創膏を貼って、私に駆け寄って来ながら日向は言葉を並べる

いらない。他の女にも与える優しさ
いらない。他の女にも向けるその心配そうな顔
いらない。私と好きな人がかぶる友達
いらない。私のものじゃない日向は

そう思えば日向の言葉を耳から耳へと流して

「いいわよ、場所は分かるから大丈夫。日向の姿見つけたから来てみただけ。後悔した、なんかイチャイチャ見せつけられたし、おいとまするわ」と強がった

日向と紬はイチャイチャの言葉に少し顔を赤らめて、手を振ってくる

「いたっ」

慣れない下駄で日向を急いで追った私の鼻緒の部分の足は赤く血が出ている

1粒、また1粒、私の頬に濡れたものが落ちてくる

「雨…?」

先程までは晴天だったのに、どうやら夏の空は変わりやすいのだろうか

雨のせいで視界が揺れて紬の足より私の足はもっと酷くみせた

私の足の怪我に日向は気づかなかった

その事実が現実を物語っているようにみえた

帰ってしまおうかとも思ったけど、私はあるひとつの事を思いついた

やはり夏の空は変わりやすいらしい
もう“雨”は上がっていた

_____「紬にはずっと前から言ってたんだけど…実は私、日向のこと好きなんだ」

帰ってくるなり、別れた時と“変わらない姿”の友人達にそう告げた

友人達は私に心配する声をかけつつ、その言葉に驚愕している

____「日向とのこと言うのが照れくさくて…ずっと隠しててごめんね」

友人達は花火なんてそっちのけで、私の話を聞き出そうとする

_____「日向のことは…仲良くなってからずっと好きで、紬に相談して…協力してもらってたの」

噂話はこうやって回っていき、話は少しずつ盛られて人を傷つける凶器に変化する

_____「それで日向とは一緒に帰ったり、勉強教えたりしてたの…」

そんなの私にはどうでもいい。
私には関係ないんだから。

______「夏祭りも実は、日向に予定聞かれてたんだけど…みんなと一緒に行くって先約してたから、約束守らないと…でしょ?」

回ればいい、勝手に。好きなように盛られて

_____「紬にそれを言ったら、そのことは忘れよー!って言われたから気にしなかったの…」

凶器になって苦しんで苦しんで苦しんでもがき苦しめばいいのよ。

____「それでね…さっきお手洗い行ったら、紬と日向が一緒にいて、楽しそうに笑ってた」

だって私のコマだった貴方が私のものを奪うからでしょ?

「紬に裏切られっ…」

ねぇ?紬。

涙を1粒左目からはらりと流しはじめれば、もう完璧以外、何物でもない。