「どんなに美しいものでも、その全てを切り取ることって出来ないよね。」

そう言って写真を撮ることを嫌っていた君はよくある最近の歌の歌詞のようにカメラロールにある僕との写真を消すか迷うこともなければ、インスタグラムに投稿してある僕との投稿を急に全て消して友達から心配されることもないのだろう。

勝手に失恋ソングに自分を重ねて涙を流している僕はおそらくこの世でいちばん滑稽だ。

いつの間にか作られていた彼女のインスタグラムの投稿を見るためだけに作ったアカウントを開く。

僕の知らない男と僕の知らない場所で撮った僕の知らない服を着た僕の知っている笑顔の君。

そこに添えてある「#カメラマンの彼氏」という文字。

きっと「どんなに美しいものでも、その全てを切り取ることって出来ないよね。」
という言葉も僕の前に付き合っていた男か
そこら辺のエッセイから引用した軽々しい言葉だったのだろう。

そんな軽々しい言葉を重々しく受け止めて君との思い出を一切残さなかった僕は失恋ソングに自分を重ねて泣いている男よりも滑稽かもしれない。

「別れちゃえばいいのに」

届くはずの無い願いだとは分かっている。

消さずに取っておいた彼女のLINE。

ステータスメッセージに書いてある

「愛してるよ」

の文字。

背景は知らない指輪がはめられた僕の大好きだった手。