五話
◇
朝食まではもう少し時間がある。私は、荷物を簡単にまとめると部屋を出た。
エレベーターを停めてくれた他の宿泊者に"thank you"と言って、ドアの間を滑り込む。
一階まで降りると、ぽんと軽い音が鳴った。
あの後、別荘の部屋に直行し、すぐにベッドに潜り込んだ。二人を祝福すべきなのはこの世界でではないと思ったからだ。私は早くこの"夢"から覚め、元の世界に帰らなくてはいけなかった。
私の狙い通り、目が覚めると元の世界に戻っていた。由依の苗字は菅原で、漆黒の髪は茶色く染められていて、ベッドの周りには酒瓶が転がっていて、二日酔いの頭が痛かった。
ラウンジには寄り添って座る由依と新くんの姿があった。顔は見えなかったが、昔と変わらず幸せで満ちた笑顔なのだろう。
どうか、これからもずっと幸せでいて。幸せ色に包まれた二人に、そっと祈りを捧げる。
きっとあれは私のどうしようもない感情を回収するために見せられた"夢"だったのだ。その"夢"が覚めてしまった今、私の心には何の蟠りもなかった。
それでも、透明な夏の空気に触れるたび、私はあの夏を思い出すのだろう。しかし、それで傷つくことはもうない。
二人を遠くから見守った後、こっそりと自動ドアをくぐり、外へ出た。
生暖かな風がゆるりと頬をなぞる。どこからか潮の匂いがした。
拝啓、透夏____
「親友に恋をしていた」
〈了〉
◇
朝食まではもう少し時間がある。私は、荷物を簡単にまとめると部屋を出た。
エレベーターを停めてくれた他の宿泊者に"thank you"と言って、ドアの間を滑り込む。
一階まで降りると、ぽんと軽い音が鳴った。
あの後、別荘の部屋に直行し、すぐにベッドに潜り込んだ。二人を祝福すべきなのはこの世界でではないと思ったからだ。私は早くこの"夢"から覚め、元の世界に帰らなくてはいけなかった。
私の狙い通り、目が覚めると元の世界に戻っていた。由依の苗字は菅原で、漆黒の髪は茶色く染められていて、ベッドの周りには酒瓶が転がっていて、二日酔いの頭が痛かった。
ラウンジには寄り添って座る由依と新くんの姿があった。顔は見えなかったが、昔と変わらず幸せで満ちた笑顔なのだろう。
どうか、これからもずっと幸せでいて。幸せ色に包まれた二人に、そっと祈りを捧げる。
きっとあれは私のどうしようもない感情を回収するために見せられた"夢"だったのだ。その"夢"が覚めてしまった今、私の心には何の蟠りもなかった。
それでも、透明な夏の空気に触れるたび、私はあの夏を思い出すのだろう。しかし、それで傷つくことはもうない。
二人を遠くから見守った後、こっそりと自動ドアをくぐり、外へ出た。
生暖かな風がゆるりと頬をなぞる。どこからか潮の匂いがした。
拝啓、透夏____
「親友に恋をしていた」
〈了〉