*
「セブンチャイルドです」
ステージ下で待機していたファンやクラスメイトたちが「ナナコー!!」と騒ぎだす。想像の倍以上の反響に、最後列にたたずむわたしはすっかり置いてけぼりだ。
飛び交う冷やかしや黄色い声をあおるようにギターがかき鳴らされる。
挙動不審にうかがっているわたしに気づいたのか、ドラムがとどろいた。
「聴いてください。なりそこないロマンチカ」
わっ! うわ、すごい。
すごい……!!
染め直したばかりの黄金から目をそらせない。
祭り日和とは言いがたい、あいにくの曇天。この日のために設置された野外ステージ。まばらな客入りだったはずが、またたく間に人であふれた。
眼球を突き刺すぎらつき。心臓を撃つ音の嵐。灰まみれの積乱雲を今にもかき消しそう。
惹かれる。引きつけられる。
こんな世界、わたしは知らない。
ポツポツと雨が降ってきた。
それでも健二くんの手は止まらない。汗なのか雨なのかわからない透明に濡れながら、楽しそうに笑ってる。
会場のボルテージは下がらなかった。
タン、タタン。
タン、タタ、タン。
雨音をも飲み込んだ激しい音色が、淡く、優しく、静まった。
あ、あの、サビ前のリズム。
サビが始まる────瞬間、今度は雨音が荒ぶっていく。
ステージ前に集まっていた客が、校舎内に避難し始める。
わたしはしばらく動けなかった。
これが健二くんのいる世界。
あれが健二くんたちのロマンチカ。
今のわたしからはほど遠い。あんなにも、遠い。
手を伸ばしても届かない。あの日見た、満月のように。
視界がぼやける。雨粒の垂れたレンズにさえ綺麗に映る。
それに比べてわたしは……。
わたしと健二くんじゃ月とすっぽん。
変わらなきゃ。
変わりたい。
あの月に似合うように。
健二くんの隣に胸を張って立ちたい。