リィトの魔力と相性抜群に品種改良したベンリ草が、リィトの思い描いていた通りの小屋を作り出す。

 見た目は完全にログハウスだ。

 高床式になっていて、もしここが水はけの悪い土地だったとしても床上浸水の心配はしなくてもよさそう。

 階段を六段あがると小屋をぐるりと取り巻く縁側というかベランダというか、という空間がある。鉢植えを育てたり、朝食を食べたりするのにもってこいのスペース。

 ドアのむこうは楽しい我が家だ。

 今回は種子をばら撒かずに、色々と考えながら地面に配置した。

 小屋全体は広すぎないほうがいい。

 気ままな一人暮らしだから、1LDKあたりがいいだろう。広々した3LDKなんて持て余すし、毎日の掃除が大変だ。

 こんなふうに建物自体の構造や間取りをイメージして種子を置くと、魔法での操作が最小限に済む。

 こないだの戦のときには、あらかじめ斥候に種蒔きをしておいてもらってモンスターたちの群れでいきなり発芽──というテロじみた作戦もとったわけだが、それと似たような考え方だ。

 準備八割、仕事は二割。

 これ、物作りをやり込むときの鉄則である。

 内装は思い描いたとおりの仕上がりだった。

 ベンリ草の匂いが瑞々しい、木の空間。

「ベッド、すくすくと育て!」

「椅子とテーブル、すくすくと育て!」

 最低限の家具も揃えたところで、日が傾きはじめた。

 夕食はどうしようか。

「……ついでだから、家庭菜園の下準備だけしておこうかな」

 ひとりで管理できる畑の大きさをイメージしてみる。

 実際に農業や園芸をするのは初めてだから、小さめから始めよう。

 畑にするための土地を決めて、種子を置く。

 ベンリ草の種子だ。

 別にベンリ草をさらに育てようというわけではない。

 もの作り以外にも、こいつはリィトの手足のように使えるのだ。

「──すくすくと、育て」

 ぼこ、ぼこ、ぼこ。

 太く逞しいベンリ草のツルが、まるで大蛇がのたうちまわっているかのように土を掘り返す、掘り返す、掘り返す!

 生長と枯死を高速で繰り返すことで、まるで意思を持っているかのように動くベンリ草。

 リィトの力では、とうてい耕すことのできない深さまで容赦なく土を攪拌していく。土に空気を含ませて、ふんわりさせるのがコツである。