カフェから出ると凪は少し散歩しようと言った。
凛が住んでいる周辺の街はS市の中心地のようにビルが建ち並び、ザ・都会を思わせる景色とは少し違った。小さくて可愛いお店があったり、少し無愛想な店主が居る古本屋、多分この街にしかないコンビニスーパー『やすまる』。それらの景色を眺めながら、歩く二人の姿は綺麗な夕日で照らされていた。
刻々と色を濃くしていく夕焼け。凛の心臓の鼓動も強く、早く鳴っていた。
 
「何か今日はあっという間だったなー」
「私もです。今日は本当に楽しかったです!」
「うん。本当に楽しかった」

 マンション前に着いてしまうともうお別れの時間だと悟り、寂しくなる。

「ねぇ、凛ーー」
「はい」

 また心地良い声が聞こえる。ちゃん付けじゃないのが何だか新鮮な気持ちで、耳がくすぐったい。
凛は頬を赤らめた。凪の綺麗な瞳と目が合う。
ドクンドクンと心臓がうるさい。凪も言おうとしている言葉が中々出せずにいるようだった。

「凛のこと、ずっと前から気になってたんだ」
「わ、私も!あのとき話しかけてくれて、気になってました……」

 二人は拙く、それでも丁寧に言葉を紡いで言った。 
 
「本当?あの……俺たち付き合いませんか……?」
「こ、こちらこそ……よろしくお願いします……」

あぁーー!!最高に幸せだ。心がポカポカと暖かい。
神様、ありがとうございます。
こんな私にはもったいないぐらいの素敵な人との縁を繋げてくれて……。
夕陽が私たちを包み込んでくれているのではないかと錯覚してしまうぐらいーー、
今日の二人はお互いに手を合わせて「バイバイ」と照れくさそうに言い合った。



 晴れて、凛と凪は付き合うことになった。

 付き合った次の日にすぐさま七海に報告した。彼女は「おめでとう!」と何回も言って、自分のことのように喜んでくれた。そして、凪と付き合ってから早速良いことが起こった。

「ちょっと凛」
「お疲れ様です!高原先生」

 とある日、凛は廊下で突然、高原先生に声を掛けられた。また何か小言を言われてしまうのではないかとビクビクしていると、先生の話はとんでもないことだった。

「来月にね、うちの学校の宣伝も兼ねて高校に外部公演に行くの。そこで、凛には主人公の妹をやってもらいたいのだけどーー」

 凛はぶわっと嬉しくなった。

「ぜひ、やらせて頂きたいです!!」

早く七海と凪くんに報告したい……!それから、凛は舞台稽古に参加し始め、七海や響と共に外部公演の稽古を進めていった。
凪と廊下ですれ違ったときは二人で小さく手を振り合う。
演技の調子もだいぶ良くなってきて、私はもっと笑顔で居られる時間が増えた。そして、帰りは必ず一緒に帰る。