そう理解していても、長年信行の体で生きてきたものがなくなってしまうということは、やっぱり両親にとってひどく悲しいことみたいだ。


信行は手足はどんどん細く、黒く変色をしていく。


活字化が始まったのだ。


活字になると言っても色々と制限があるらしく、人間が活字になる場合はひらがなのみということらしい。


これが海外ならまた違ってくるのだろうけれど、とにかくひらがなのみだと決まっている。


いくらアルファベットやカタカタになりたいと願っても、それは無理なお願いだった。


そしてそのひらがなは生前自分が一番お世話になったひらがな一文字だと言う。


信行は一体なんのひらがなになるだろう?


そう思って観察していたとき、突如動悸に襲われて私はドアの前に移動した。


大きく息を吸い込んで落ち着こうとしてもうまく行かず、冷や汗が額から流れ落ちてきた。


それを手の甲でぬぐうと、今度はその手が震えていることに気がついた。


典型的な活字中毒者の症状だった。