もう、終わりだ――!!


覚悟を決めた次の瞬間、私の手は強引に引っ張られ少し痛みを感じたかと思うと隣の本へと移動してきていた。


さっきまで感じていた、体に重たくのしかかってくるような空気は消えて、暖かくて胸の奥がむずむずしてくるような空気が流れている。


「もしかして蘭?」


それはとても久しぶりに聞いた名前だった。


私が「お」になってから、人間の名前で呼ばれたことなんてなかった。


視線を向けるとそこには誤字の「は」がいた。


「は」は私の手を握りしめていて、あの女から助けてくれたのだとようやく気がついた。


「信行?」


私は「は」をまじまじと見つめて言った。


どれだけ見つめてみても「は」は「は」なので信行かどうかなんてわからないのだけれど、そうしてしまう。