実際に信行の姿を目の当たりしたらショックを受けるかもしれないと思っていたけれど、それもなく、私は時々新聞に視線を落としながらその時を待った。


信行の病名は活字中毒。


この病気にかかるのは昔ながらの紙でできた本を好む若者が多かった。


電子書籍が主流となった今、現代人の体は本の活字に強い依存反応を見せるようになり、それはアルコールや薬物中毒と同じような作用をもたらす。


それらと違うのは中毒に陥った人間の末路だった。


先に上げた2つの中毒になった場合、最悪命を落としてしまう。


だけど活字中毒の場合は、中毒に陥った本人が活字に変化してしまうのだ。


決して死ぬわけではなく、自分自身が大好きな活字になるということで、信行がどれほど弱ってしまっても悲観的な気持ちは湧いて来なかった。


信行が活字になった暁には、紙の本が沢山置かれている図書館に置いてほしいということだった。


活字になればどんな本の中でも行き来できるようになるので、本が沢山置かれている場所を次の住処にと願う人は沢山いる。


入院する際、信行は一冊の本を持ってきていた。