こんなに暗闇なのに女の長い髪の毛や表情まではっきりと見えるのはどうしてだろう。


私は一歩後ずさりをすれば女は一歩近づいてくる。


また下がればまた近づいてくる。


私が動くことで物語も進んでいくのだから当然のことだった。


でももう元の本には戻れなかった。


目の前の女から逃げるためには全力で物語の中を走り抜けて、更に隣の本にうつるしかない。


私には女の横をすり抜けて行く勇気はなかった。


私は女に背を向けて全力で走った。


周囲でなにが起こっていてもキツク目を閉じて足は緩めない。


早く次の本へ移りたいあまり、後ろから化け物が追いかけて来ていることにも気が付かなかった。