室内は病院特有の消毒液の匂いと、動くことのできない患者の糞尿の匂いもかすかに漂ってきていた。


白い簡素な個室で薄い花がらの布団を使っているのはせめてもの気分転換のためなのか、そこだけ浮いているように見えてみんなの視線が一瞬だけ集まったのがわかった。


窓の外からはセミの声が聞こえてきて、夏真っ盛りなことを伝えてくる。


私は右手に待合室からこっそり持ってきた新聞紙を握りしめてベッドに横たわっている男を見つめた。


彼の名前は原田信行(ハラダ ノブユキ)。


私の幼馴染で、一週間ほど前からこの病院に入院している。


つい一週間前までは元気そうな笑顔を浮かべていた信行も、今は酸素マスクをつけていないと呼吸ができない状態まで悪くなっていた。


この一週間で信行の体はやせ細り、骨に皮が張り付いているような有様で、目は落ち窪んでしまっていた。


痩せたことでギョロリと出目金のように出てきた目は天井を見上げるばかりで私達の姿が見えているのかどうか怪しかった。


病室内には私の他に信行の家族や特別中の良かった友人が他に3人ほど集まってきていた。


医師から集まるように言われたのはつい1時間前のことだった。


その知らせをしてくれた信行の母親の声は涙で濡れていたけれど、私は冷静な気分でここに来ることができた。