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電車の終着駅からバスで十五分の古びた水族館は、開館直後にも関わらず夏休み中の子ども達で溢れ、既に賑わいを見せていた。

泰輝はひとつひとつの水槽の前に、人一倍長く留まっている。
私はその横で、個性溢れる海の生き物たちの生態について楽しそうに話す彼の姿を見ながら、このまま時が止まって欲しいとばかり思っていた。

「なんか俺語りすぎ?ちょっとウザい?」

イルカプールの前のベンチに腰を下ろすと、泰輝は突然我にかえったように苦笑いを浮かべた。

「ううん、私は嬉しいよ。泰輝の世界を知れたみたいで」

「そっか。それならいいけど」

「泰輝は本当に海が好きだね」

「うん。このあいだこっちに来て初めてダイビングしたんだけどさ、見た事ない魚が結構いて新鮮だった」

「そっか。卒業したら、私も泰輝と一緒にダイビングしていい?」

「もちろんだよ。楽しみだな」

そっと握られた温かな手が、私をどこまでも連れて行ってくれるような気がした。

束の間の海の旅はあっという間に終わりを迎え、私たちはそれに抗うように出口にあったギフトショップに入った。小さな男の子が大きなイルカのぬいぐるみを抱え、満足そうな笑顔を浮かべて出て行く。