親愛なる背中へ

 ……そのとき、どうしてか次から次へと言葉が溢れだして。


「――私、好きですよ」


 さらりと、そんなことまで口にしていた。

 もちろん言葉の対象は、会話の流れで先生の背中であるのは間違いはなかったのだけど。
 私はこのとき自分が発した言葉で、胸の中に膨らみ始めていたもう一つの“好き”に気付いてしまったんだ。

 ……ああ、好きだなぁって。

 目の前の背中に抱く愛おしさが、先生自身への想いと結びついているって、唐突に自覚してしまったんだ。

 そのとき先生は、私の言葉をどう思ったんだろう。

 私の“好き”に深い意味などないと思っていたのかな。それとも先生は大人だから、すべてわかったうえで、子供じみた私の馬鹿正直な言葉を聞き流していたのかな。

 なに一つわからないけど、先生がただ、薄く笑みを携えて煙草を吸っていたのは覚えている。


 気付いてしまっても、所詮は報われることが許されない恋心。

 どれだけ大好きな背中を見つめても、先生がその想いをその背中で受け止めてくれることももちろんない。

 その現実を突きつけられながら、月日ばかりが過ぎた。
 先生とこの場所で出会ってから、もうすぐ2年が経とうとしている。

 ……でも私は、桜が咲き誇るその頃、この場所を訪れることはない。
 だって私は半月後に訪れる3月1日に、この学校を卒業するから――。

 諦めきれずにひたすら先生の背中ばかりを見つめて追いかける日々も、もう、終わってしまう。