親愛なる背中へ

 ずっと追いかけてきた、頼れる背中。
 ついていきたいと恋い焦がれた、大好きな背中。

 ……でも最後くらい、背後からではなく、正面から先生の心に触れてみたかったんだ。“生徒”に語りかけてくれる“先生”ではなく、一人の人間として、真剣に向き合いたかった。

 それなのに、まるで向き合うのさえ拒むように気持ちを伝えさせてくれないなんて……。

 応えてくれなくてもいいから、ただ、きちんと聞いてほしかったのに。


「……っ、ずるいよ……」


 無茶苦茶なことを言っているのは、さすがにわかっていた。

 それでも想いを告げるのさえ許されずに、最後の最後まで先生にとって私は“生徒”でしかいられない悔しさが滲み出てきてしまう。

 唇をきつく結んで目の奥から湧いてくる熱を漏らさないように堪えていると、そんな私を見て先生は困ったように笑った。駄々をこねる子供を目の前にして、対応に困っている大人の顔だった。


「……そうだな、俺はずるい大人だよ」


 私が好き勝手言うそれを認めるように、先生は苦笑を浮かべる。だけどそれからいつもの“先生”の顔になると、諭すように言った。


「でもな、中西。俺は、ここから生徒たちを送り出す立場の大人なんだ」

「……」

「もう、おまえの前を歩く手本でも、追いかけるべき対象でもなくなる。この場所から旅立っていく中西には、必要のない存在だよ」

「そんなこと、ないです……!」


 否定するように、震え始めていた喉から懸命に声を振り絞った。