小さなメッセージに気づいたカイが南側のゲートが壊れていることを知ったのは、四月の終わりのことだった。
 カイと同室だった赤い髪(レッドヘア)が『施設』を去った日。中庭の無人ヘリを見なくて済むように壁際の席で本を眺めていて、明るい場所では見つけられないかすかな書き込みを目にしたのだった。
 雨や地下水を飲み水に変える自動浄水施設が外にあり、ゲートはその施設に不具合が生じた時のための、ずっと昔の通用口だった。ドローン型の修理機器が主流の現在、ゲートはずいぶん長い間、使われていなかった。
 使わないゲートの管理プログラムは自動的に削除されると聞いたから、ゲートは今、管理の上では壁と同じように扱われているのかもしれない。
 二日続いた雨が止むと、カイとゲルダはグリーンアイを誘ってゲートを抜けた。
「三年ぶりに髪を切ったから、首の後ろがすうすうするね」
 キョロキョロと森を見回しながらグリーンアイが言い、少年のように短くなったゲルダとグリーンアイの髪をしげしげと眺めてから、カイは「よく似合ってるよ」と褒めてくれた。
 カイの髪も短くなった。
 絵本の王子様のような長い金色の髪は、もうそこにない。ゲルダは少し寂かった。
 三年に一度、ゲルダたちはみんな髪を切る。それは最初から決まっていることだ。切った髪は、『神様のギフト』として病気の治療で髪を失った人たちの医療用ウィッグになった。髪を提供するのは『施設』の子どもたちの役目の一つだった。
 ヒトを育てるのにはとてもお金がかかるし、困っている人の役に立つことは大切で尊いことだから。
 ゲルダたちはなんの疑問を持つこともなく、自分の体の一部である髪を差し出した。