声にはせずにそんな問いを瞳で投げかけるけど、大垣くんはわたしの言葉を待って黙っていた。あえてそれを聞くことが、大垣くんのけじめに近いものなのかもしれない。

 だったらわたしは、真実を告げるべきだ。彼の傷口が開いてしまわないか心配になるけど、それが彼のためになるのなら。


「……旦那さん、すごく優しい人だよ。ちょっと頼りない雰囲気もあるんだけど、お姉ちゃんのことを好きな気持ちは滲み出るぐらいわかった。……お姉ちゃんはその人の隣で、幸せそうに笑ってた」


 本来なら雨が降る予定だった時間に、二人の門出を祝福するように晴れた空の下。厳かにそれは始まった。

 お姉ちゃんも旦那さんもスタイルがいいから、純白のウエディングドレスとシルバーのタキシードを着こなしてよく似合っていた。

 優しい笑みを向けてくれる旦那さんに微笑むお姉ちゃんは、本当に綺麗だった。お姉ちゃんが浮気していたなんてことが信じられないぐらい、神聖で素敵な挙式だった。

 家族や友人が祝福する中でわたしはたった一人、お姉ちゃんに腹を立てていた。

 みんなの前で旦那さんと誓いのキスを交わすお姉ちゃんは、まさしく愛しい人の隣に立つ人の笑顔を浮かべていて。以前お姉ちゃんと大垣くんがキスしているところを偶然見てしまったときを思い出して、お腹の奥がぐるぐると回っているみたいに気分が悪くなる。

 同時に、あのとき照れながらも嬉しそうに笑っていた大垣くんの表情を思い出してしまい、やるせなさでいっぱいになった。

 その場にいない大垣くんのことを思うと、泣いてしまいそうになるほどだった。


「……ん、そうか。美保が幸せそうなら、俺はそれでいいよ」


 でも、今目の前にいる大垣くんは、さっきまで泣いていたのが嘘みたいにお姉ちゃんの幸せを噛み締めている。

 大垣くんの言葉からは、なぜだか“俺は大丈夫だよ”って声が聞こえてきそうだった。幻の声はお姉ちゃんではなくてわたしに向けられたもののようで、それでようやく気付く。
 昨日のことを話しているわたしが、そのときに溢れそうになった感情を思い出して顔に出してしまっていたことに。


「俺は美保が幸せなら、それでいいんだよ。美希だって俺に、悲しまないでくれたらそれでいいって言ってくれただろう? それと似たようなもんだよ。それに……」

「……っ!?」


 突然大垣くんの腕が伸びてきたかと思うと、両方の頬を掴まれて見つめられた。
 すぐ近くで見る大垣くんの顔と触れてくる熱い指先に驚いて、その状態のままで固まってしまう。

 優しい瞳がすぐそばで、真っ直ぐわたしを見ていた。