灰色の空は、一日中雨粒を地上に落としていた。

 私が住む地方の梅雨入りが発表されてから1週間。降る量は日によってまちまちだけど、ここ最近で雨が降らなかった日はない。

 昨日は夕方頃から急に降りだした。本当なら天気予報では昼から降ると言っていたのに。
 それに比べて今日は予報通り、朝からずっと雨降りだった。予報が当たっても、これはこれで嬉しくとも何ともないけれど。

 一日中降り続けるなんて、雨雲もなかなか酷いものだ。

 おかげで窓を閉めきった教室には湿気が充満していて、肌に纏わりつく感じが心地悪くて仕方がない。
 おまけに癖毛のショートカットも纏まりが悪く、うねうねと好き勝手に広がっている。朝にムースで整えてきたのに、放課後になる頃には何の効果ももたらしていなかった。

 天然パーマなんて上手くセットできない限り、残念ながらただの厄介者だ。


「先生! 旦那さんにはなんてプロポーズされたんですかー?」

「えー、恥ずかしくてそれは言えないよ~」


 窓のそばにそびえる大樹の葉が雨に打たれる様子を見つめていると、教卓の前にできた人の輪から盛り上がった声が聞こえてきた。

 輪の中心にいて生徒に囲まれているのは、このクラスの担任の美保(みほ)先生。ついさっき終わったホームルームで結婚報告をしたばかりなので、ちょうど生徒たちから質問攻めにあっているところだ。

 6時間目の授業のあとのホームルームまで、先生は指輪を着けていなかった。だけど照れた様子で頬に当てている左手の薬指に、今はしっかりとシルバーの細めの指輪がはまっている。

 愛の証を身に付けて幸せ絶頂の笑顔を浮かべるその姿に、非常に胸がむかむかした。腹立たしい気持ちさえ沸き上がってきて、ついつい眉間にしわが寄るのが自分でも嫌になるほどわかる。

 おまけに先生の天然パーマの髪はわたしとは違って、この時間もふわふわの綺麗なウェーブを保っていたから、余計に気分が悪くなった。

 美保っていう名前に相応しく、さすが美しさを保つことは怠らない。

 ……まあ、そんなの、見た目だけだけど。

 あの女の残酷で腹黒い中身を知っているのは、きっとわたしだけだろう。

 ――いや、違うか。

 今日、あの彼も知ってしまった。とても最悪で残酷な裏切りとともに。

 教室前方の人だかりは、美保先生の旦那さんとのなれそめ話に興味津々な人たちで溢れかえっている。
 一応そこに注目するけれど、やっぱり彼の姿は見当たらなかった。

 もう、帰ったのかな……。

 そうであってもおかしくはないけど、教室の彼の机の上には乱暴にカバンが置かれたまま。つまりまだ、彼は学校にいる。

 ならば、行き場所は一つだ。おそらく彼は、あの場所に向かったのだろう。