屋上に出て、洗った白衣を干す。
 すぐに拭き取ったけれど、うっすらとオレンジっぽい染みが残っていた。こんな白衣を着るわけにはいかないし、新しいものを出さなくては。

 ぽつんと置かれたベンチに腰を下ろし、ゆっくり伸びをした。
 「嫌い」も「死ね」も「消えろ」も、全部慣れてしまった。傷つきはしないけれど、怒っている人と関わるのは本当に疲れる。

「先輩、お疲れ様です」
 背後から軽い声が聞こえた。
「おつかれ、篠崎」
 私の後輩、篠崎が横に腰を下ろす。
 
 篠崎は2カ月前にここに来たばかりの実習生だ。ようやく仕事は覚えてきたようだが、まだまだ悪意のある発言や態度への免疫はない。
「もう俺嫌っすわ、この仕事」
 はあと大きなため息をついて、篠崎はのけぞる。目の下に、くっきりとクマがあるのが見えた。
 この仕事はとても過酷だ。篠崎が辞めたがるのも無理はない。