「こーうー!」
後ろからぎゅっと抱きつくと煌は恥ずかしそうにして笑う。
これが毎日の日課。煌が嫌がらないからずっと続けてる。いい歳なんだから、もっと恥を知れ。私が言えたことではないけれど。
「おはよう、さくら」
「なにそれつまんない、もう反応してくれてもよくない?」
「朝からだる絡みしてこないで。俺が反応しないの分かってるからやってるんでしょ」
見透かされた気がして、なんか嫌だから足を蹴る。
「いった!何すんのさ!」
朝からよくそんな声出るなと思うくらいの声で叫ぶ煌を置いて、学校へ向かう。
ポカーンとした間抜けな顔に思わず笑みがこぼれるが、煌は気づかずにしょんぼりしてる。
ごめんよー、と心のなかでは思いつつ、きっと今私は満面の笑みなのだろう。
我ながらひどい性格してるなぁ。
煌と私はいわゆる幼なじみだ。
家族以外で一番長く一緒にいるとか言うけどまさにその通り。
子供のときからずっと一緒にいるのだから、煌のことを一番知っているのはもちろん私。
私のことを一番知ってくれているのは煌。
私たちの仲はめったな事では引き裂けないと自負している。
誰が何を言おうと、これは絶対なんだ。
生徒会が早くおわったから、久々に趣味の買い物をゆっくりできる。
三日後のために私はプレゼントを買おうと思っていた。
男子高校生用のスポーツタオル。
三日後は煌の誕生日なのだ。
煌には昔もタオルをあげたことがあって、前にあげたタオルは部活の練習でいつも使ってくれているから、ボロボロになっている。
まあ、すごく嬉しいんだけど。
たくさん悩んだ末に、桜が描かれたかっこいいスポーツタオルを買った。
煌の誕生日の前の日、いつものように煌と一緒に学校に行く。
「こう?今年もこうの家でいいの?」
「ん、何が?」
「いや、誕生日パーティー。いっつもこうの家でやってるよね?」
毎年家族でのお祝いに私も混ぜてもらい、みんなでパーティーをしている。
煌は私の質問にどこか申し訳なさそうに答えた。
「あ、ああ、今年はいいかな。友達とやろうかなと思ってて」
「え、ずっとみんなでやってたのに?まぁ、煌がやりたいようにすればいいけど...」
「わりぃな、今年はとりあえず、亅
...心がざわついたのはどうしてだろう
その日の夜、煌からメッセージが来た。
学校に行くとき、いつも話しているからメッセージなんてほとんど使わない。
なんだろう、と思ってケータイを開くと、
『もう、学校には一緒に行けない』
ただ一文だけ、そう書かれていた。
なんで、いきなり?
ずっと一緒だったのに
小さいときからずっと、ずっと。
『どうして?何かあったの?』
煌に限って理由もなく私と離れるなんてしないはず。
ずっと一緒にいたのだから。
少し間が空いて、ポコンという音とともに送られてきたメッセージには
『あいと付き合ってるんだ、俺』
────え?
予想もしていない答えだった。
まさか煌に彼女ができるなんて。
しかもよりによってあの藍。
別の人ならまだ許せたかもしれない。
でもなんで、なんであんな...
あんな嘘つきと付き合うの、
私は生徒会だから演劇部の部長である藍とは関わりがあった。
彼女は演技が上手く、顔も可愛い。
だから、当然モテるし、いつも周りには人が集まっていたが、女子たちの中ではすこぶる評判が悪かった。
一時期5股してるだとかそういう噂が絶えない時期もあった。
私もほかの女子と同じようにはっきり言って彼女のことが嫌いだ。
去年の夏休み前だっただろうか、彼女が部長になって最初の部長会議。
副会長さんがかなりのイケメンで藍は一目惚れしたらしい。
その時、彼女も副会長も付き合ってる人がいて、それは誰でも知っている事だった。
なのに、藍は副会長に擦り寄って行った。
彼氏と別れたと嘘をついて。
その時から私は彼女に明確な嫌悪感を抱いている。
なのに.......
『なんであいと付き合ったの?』
『告られたから』
『それだけ?』
『それで好きになった』
すぐ別れるだろうと思ってしまった。
どうせ浅い考えで告白したんでしょ。
そんなの長く続くはずない。
.......なんて。