伸ばした指が、震える。
あの人の家の、玄関チャイムを押す為に伸ばした指。たったひとつのボタンを押す為にこんなにも緊張する事があるなんて、今まで知らなかった。
『頑張って! 絶対大丈夫だから!』
耳元で囁く声。
「うん。わかってる。ありがと、りるりる」
小声で応える。
天使のりるりるは、あたしにしか見えないから、人に見られたら、他人の家の前で独り言を言う変な女と思われちゃう。
りるりるは恋の天使。
3日前に突然現れたりるりるは言った。
「じゃ~ん☆ アナタはいちおくぶんのいちの確率でアタシに選ばれました♪アタシがついていれば、どんな恋も叶えられます♪」
ただ眺めている以外、何ひとつできなかったあたしの恋。一目惚れのあの人に、話しかける術さえなかった。
それを応援してくれる、というりるりる。その存在だけでもあたしにはありがたかった。だから素直に信じた。そしてここに来た。あの人の家。
ピンポ~ン。
指先に込めた小さな力に、不釣り合いなくらい大きな音。
何も考える事ができないくらいすぐに、中で足音がする。
「はい?」
厚いドア越しの声。
「えっと……」
今、彼がドアの覗き窓からあたしを見ている。何も考えられない。喉の奥で声がもつれ、言葉にならない。ちゃんと練習してきた筈なのに……今、何を言うべきなんだっけ?
『留里!』
耳元で叱咤の声。りるりるの声でほんの少し、落ち着きを取り戻す。
「あたし、野中留里と言います。白瀬さんの事、ずっと見てました。あたし……」
ドアが開いた。だけど、あたしの必死の声は、あまりに小さすぎたようだった。
「何? 聞こえなかったんだけど……?」
彼が目前であたしを見ている。微かな不審と好奇の混じった視線。当たり前の反応だ。
「あたし、白瀬さんが好きです!」
生涯で、こんなにエネルギーを使った一言はなかった。
「えっ………」
彼は固まっている。当然かも知れない。彼には、あたしが誰だかすらわからないのだから。もしかしたら、ストーカーと思ったかも知れない。
いきなり家に押しかけるなんて、まずいやり方。それくらい解ってる。でも、あたしにはりるりるがついている。
『よく言えたね、留里。じゃあ、今の理沙の告白のエネルギーで魔法をかけるよ☆』
優しいりるりるの声が耳をくすぐる。
『白瀬裕也は野中留里に胸きゅんきゅ~ん☆☆』
……これが魔法の呪文? イタ過ぎ! 彼に見えてはいない筈だけど、それでも、は、恥ずかしい…!!
あたしはそっと顔をあげた。彼は、じっとあたしを見つめていた。
「えっと……」
あたしと彼は、同時に言った。それ以上、言葉が出ないあたしに、彼は穏やかな目を向けた。
「とりあえず、あがってよ」
あの人の家の、玄関チャイムを押す為に伸ばした指。たったひとつのボタンを押す為にこんなにも緊張する事があるなんて、今まで知らなかった。
『頑張って! 絶対大丈夫だから!』
耳元で囁く声。
「うん。わかってる。ありがと、りるりる」
小声で応える。
天使のりるりるは、あたしにしか見えないから、人に見られたら、他人の家の前で独り言を言う変な女と思われちゃう。
りるりるは恋の天使。
3日前に突然現れたりるりるは言った。
「じゃ~ん☆ アナタはいちおくぶんのいちの確率でアタシに選ばれました♪アタシがついていれば、どんな恋も叶えられます♪」
ただ眺めている以外、何ひとつできなかったあたしの恋。一目惚れのあの人に、話しかける術さえなかった。
それを応援してくれる、というりるりる。その存在だけでもあたしにはありがたかった。だから素直に信じた。そしてここに来た。あの人の家。
ピンポ~ン。
指先に込めた小さな力に、不釣り合いなくらい大きな音。
何も考える事ができないくらいすぐに、中で足音がする。
「はい?」
厚いドア越しの声。
「えっと……」
今、彼がドアの覗き窓からあたしを見ている。何も考えられない。喉の奥で声がもつれ、言葉にならない。ちゃんと練習してきた筈なのに……今、何を言うべきなんだっけ?
『留里!』
耳元で叱咤の声。りるりるの声でほんの少し、落ち着きを取り戻す。
「あたし、野中留里と言います。白瀬さんの事、ずっと見てました。あたし……」
ドアが開いた。だけど、あたしの必死の声は、あまりに小さすぎたようだった。
「何? 聞こえなかったんだけど……?」
彼が目前であたしを見ている。微かな不審と好奇の混じった視線。当たり前の反応だ。
「あたし、白瀬さんが好きです!」
生涯で、こんなにエネルギーを使った一言はなかった。
「えっ………」
彼は固まっている。当然かも知れない。彼には、あたしが誰だかすらわからないのだから。もしかしたら、ストーカーと思ったかも知れない。
いきなり家に押しかけるなんて、まずいやり方。それくらい解ってる。でも、あたしにはりるりるがついている。
『よく言えたね、留里。じゃあ、今の理沙の告白のエネルギーで魔法をかけるよ☆』
優しいりるりるの声が耳をくすぐる。
『白瀬裕也は野中留里に胸きゅんきゅ~ん☆☆』
……これが魔法の呪文? イタ過ぎ! 彼に見えてはいない筈だけど、それでも、は、恥ずかしい…!!
あたしはそっと顔をあげた。彼は、じっとあたしを見つめていた。
「えっと……」
あたしと彼は、同時に言った。それ以上、言葉が出ないあたしに、彼は穏やかな目を向けた。
「とりあえず、あがってよ」