「おかえり。どうだった?」

 アパートに戻るなり、薄い長袖のTシャツに、下は黒の下着だけの君が出迎えた。
 少しの違和感を覚えつつ、小さく息を吐く。

「……服着なよ。風邪ひくよ」
「ちょうどシャワー浴びてたんだって。で、どんなカンジ? 結婚式って」

 まだ少し濡れた髪で、背後から抱きつかれる。柔らかな温もり、それから冷たい感触が頬を刺す。

「……思ったより、普通だったよ。ウエディングドレスは、やっぱキレイだったけどね」
「ふーん」

 反応を見ていたのか、目と鼻の距離にあった顔が離れていく。服を着始めた君を遠目に見て、荷物を片付けた。

 友人が結婚すると話したとき、君は笑っていた。「もうそうゆう歳かぁ」なんて言いながら、目の奥は違うところへ向けていて。
 触れたくなさそうだったから、すぐ話はやめたのに、どんな心境の変化だろう。わざわざ、自ら話題に持ち出すなんて。

 そういえば、いつもはボクサーパンツみたいなのを履いてるのに、さっきの下着はヒモだった。違和感の正体に気付いたとたん、私の中で小さく渦巻いていたものが、少しだけ大きくなった。


 深夜零時。薄暗い部屋の中、ベッドの上でスマホに文字を打ち込む。
 結婚式のあと、新郎の友人男性と連絡先を交換した。二人で声を掛けてきて、こっちも二人がフリーだと知ると、流れでそうなった。

 気は乗らなかったけど、場の空気を読めば断る選択肢なんてないに等しい。向こうは絶対に気があるよって、友人が盛り上がっていたし。

「ねぇ、この人どう思う?」

 ほんのちょっと、嫉妬させるつもりだった。してくれたら、今の気分から這い上がれる気がして。
 だけど、ちらっと結婚式での写真を見た君は、

「……いいんじゃない」

 毛布に埋まりながら、ぽつりと一言。それから、また自分のスマホに目を戻す。
 今まで、沈黙もそっけない態度も、それほど気にしたことはなかった。君がそうゆう性格なのは、誰よりも分かっているから。

 ーーでも。
 少し伸びた君の黒髪を触りながら「それだけ?」と聞き返していた。