いくつもの季節が通り過ぎて、また秋が来る。去年、お揃いで買った黒のタートルネックを着て、街へ繰り出した。

 並んで歩いていると、頭ひとつ分大きな君は、モデルみたいですれ違う人を二度見させる。
 それから、私の方へ視線が来て、なんだ彼女持ちかなんて言われたりして。二人で目を合わせて、堪えきれなくなってククッて笑うの。

「やっぱり、千秋って男顔なんだね」
「なんだよそれ。まっ、別にいいけど。気にしてないし」
「着たい服着て、したいことすればいいじゃん。なにも悪いことしてないし、私たち」
「……そうだなぁ。うん」

 指を絡めて歩くのも、もう慣れた。友達で手を繋ぐ子だって、中にはいる。
 こうしていると、恋人同士になれた気になって安心できた。ふたりきりでいる時より、誰かにこの関係を認められている気になれたから。


 肌寒さが強くなって、部屋から出ない日が続くようになった。
 スマホとパソコンにかじりついて、文字を打つ。ベッドで寝そべる隣から、煙草とチョコレートの香りがほのかに香ってくる。
 好きな匂いじゃないけど、嫌いじゃない。そばに君がいると感じられるから、ある意味生存確認みたいなものなのかもしれない。

 君がシャワーを浴びている隙に、スリープ状態のパソコン画面を開いた。一度だって、触れたことのなかった君のパソコン。

 案の定、ロックがかかっていた。徹底していたから、暗証番号を入力する手を見れたことはない。お互いの誕生日、出会った日、それから好きなアーティストやアルバムのタイトルなど、手当たり次第やってみた。
 でも、解除することはできなくて、戻ってきた物音であきらめることにした。

 君が書いている物語を、いくつか読んだことがある。どれも短編で、きれいな文体だった。
 一番見たいものは、絶対に読ませてくれない。今、執筆している途中だと言って、もう二年ほどが過ぎている。

 どんなものを書いているのか。それは君の脳内を覗き見るみたいで、興味は尽きない。
 チャンスがあったら。彼氏に内緒でスマホを盗み見る彼女の気持ちが、少しだけ分かった気がした。