さてどうしたものかと考える香奈。
あのゲームには香奈も思うところがあったので、知らぬフリをして断るという手もある。
そうすれば、こんな地味子にフラれた男として笑いものにすることができるだろう。
だが、そんなことをしたら地味子のくせにあの篠宮彰をフったとして、女子達から嫌がらせを受けないかと心配だった。
非常に気に食わないが、ここは大人しく受け入れて馬鹿にされる方が身のためかもしれないと、香奈は即座に計算する。
そして……。
「えっと、よろしくお願いします……」
少し棒読みになってしまったのは致し方ない。
演技などしたことがないのだから。
しかも、この直後にネタばらしをされからかわれるのかと思うと、怒りを抑えるので精一杯だ。
地味のなにが悪いのか。
友達がいなくて誰に迷惑をかけたというのか。
いろいろと言いたいことを飲み込み、次の言葉に備えると。
「本当に!?」
綺麗な顔に笑顔を浮かべて彰は嬉しそうに香奈の手を握った。
「ん?」
思っていた反応と違って、香奈は困惑する。
思わず彰の背後や、周囲をキョロキョロしてしまう。
どこからネタばらし要員が突入してくるのかと待っているが一向にやってこない。
こっちはネタばらしから馬鹿にされて泣きながらこの場を去る、までのイメージが完璧にできあがっているのだが。
さすがに涙を流すなどという女優のような芸当はできないので嘘泣きだが、準備万端でまっているのに、他に誰も来ない。
ネタばらしはいつなのか。
不思議に思っていると、ぐっと手を引き寄せられる。
見れば、彰がキラキラとした眼差しで香奈を見ているではないか。
なぜそんな目で見るのか分からず、香奈はたじろぐ。
「嬉しいよ、三島さん。あっ、付き合うんだったら他人行儀だよな。か、香奈……って呼んでもいいかな?」
恥ずかしそうに照れながら言う彰に、香奈は目を丸くする。
「や、やっぱり急に馴れ馴れしすぎたかな!?」
あたふたする彰。
反射的に香奈は「そんなことはないけど……」と口にすると、彰はぱあっと表情を明るくした。
それは香奈にとって予想外の反応である。
彰はどういうつもりなのか。
いつまでこの茶番を続けるのだろうかと困惑している香奈ははっとした。
これはきっとしばらく寝かせてからネタばらしをするつもりなのだろうと。
最近では、ゲームのことはある程度の女子の知ることとなっているので、警戒心が薄れたところでばらすつもりなのだと考えた。
なんて小癪なまねをするのかと、彰への好感度がどんどん下がっていく。
そっちがその気ならこの茶番に乗ってやろうと、香奈はなんだか分からない対抗心を燃やし始めた。
「篠宮君」
「なに?」
「私たちが付き合ってることは誰にも内緒にしてほしいの。できる?」
「えっ……。どうして?」
彰は不思議そうだが、香奈からしたら当然の処置である。
一時的とは言え、彰と付き合うことになるのなら、女子からの嫉妬は集中砲火されてしまう。
そんなのはごめんである。
内緒にしていれば、いざネタばらしされても香奈の被害は最小限で済む。
それに彰とて人前で地味子の香奈と恋愛の真似事などしたくはないだろうし、お互いにウィンウィンだ。
「人前でもただのクラスメイトでいてね?」
「えっ!?」
彰はどうも不服そうだったが、「それなら付き合うわけには……」と濁したら、すぐに了承した。
そこまで必死になるなんていったいどんなゲームの内容だったのだろうかと気になってくる。
ネタばらしが終わったら聞いてみてもいいかもしれない。
なにはともあれ、不本意ながら彰と秘密のお付き合いが始まった。
彰は最後に「せめて俺のことは彰って呼び捨てにしてくれないかな」というので、それぐらいならと香奈は頷いた。
それに対して大げさなほどに喜ぶ彰に、なんて演技がうまいんだと香奈は感心したのだった。